設立からまだ10年弱の投資顧問会社である「エクシア合同会社」が、破産手続きを開始しました。
この手の話は、事あるごとに書くのですが、いわゆる「ポンジ・スキーム」と呼ばれるものですね。
ポンジ・スキーム
アメリカの天才詐欺師「チャールズ・ポンジ」が由来。
「出資金を募り、投資先の運用益を配当金として支払う」として投資家から資金を集めるが、実際は運用をせず、新規の出資金を配当金に回す手法。
最初から「最後は飛ぶ」が前提なので、運用は一切しない。
騙される人が後を絶たないので、「ポンジ・スキーム」が発生するたびに、執筆先の様々なところで注意を促しているのですが、やはりこのような手法に騙されてしまうかたはまだまだ多いようです。
今回の「エクシア」に関しては、出金できなくて気が付いたらしいですが、大した運用実績もなく集めたお金を配当原資として支払っているため、それが尽きれば当然支払えるお金はなくなります。
最後は、”どろん”するか、”もう一切の金がない”と破産するかのどちらかになるでしょう。
では、出資した人たちはなぜこんなにも簡単に騙されてしまうのでしょうか・・・?
それは、騙す方が用意周到に、「良い人もしくは信頼できる人」を装うからですね。
例を出してみましょう。
WOWOWのドラマで、東南アジアの架空の国を舞台とした「プリズナー」という作品を観たかたは、中村俊介演じる「譲原卓也(ユズ)」が詐欺師の「ジョイ・サーガ」にパイナップル農園の共同経営を持ちかけられたシーンを覚えているかたもいるでしょう。
その農園は国営企業で売買などできるものではないのですが、ユズはそんな情報を持ち合わせていないため、最終的に出資金として40万ドルを詐欺目的に近づいてきたジョイに渡してしまうのです。
孤児院を運営しているユズは、出資金の40万ドルというお金が今現在の手持ち金と同じ額だったため、最初の内は「共同経営はできない」「お金は出せない」ときっぱり断っていました。
しかし、詐欺師というのは勧誘をせず、ストーリーを作ります。
ジョイは、最初に孤児院を運営しているユズに感銘を受ける素振りを見せ、5万ドルの寄付金を渡します。
つまり、これが餌になっているわけですね。
そして、実際にパイナップル農園を見に行こうと誘うのです。
農園はちゃんと存在していて、そこには現在の経営者もいます。
もちろん、この農園の経営者を装っている人間も詐欺グループの1人で、ジョイと裏で手を組んでいます。
しかし、ここでジョイはまたちょっとしたアクセントを入れておきます。
それは、「この経営者が他の企業にも農園の売却を相談していた」というストーリーです。
そう、これを事前に見せておいて、急がないと他の輩に農園を売られてしまう、と思い込ませるわけですね。
ちなみに、ジョイは「話が違う!」のように聞いてなかったふりをします。
その後、農園を一回り見て、現在農園で働く従業員がしっかりと働いているのも見ました。
ユズは迷います。
確かに農園は広くて立派だし、この農園がうまく事業として回れば年間で10万ドルの収益は固い、とジョイに言われていたからです。
悩むユズに、ジョイは最後のストーリーを披露します。
それは・・・ジョイ自身も孤児院出身だという話です。
くぅ・・泣けるじゃないですか!
昔の自分の写真を見せて、「私も子供の頃は苦労した」、「ユズが面倒見ている孤児たちにも同じ思いをさせたくない」、と話しをされたらどうですか?
別の会社にも売却の声を掛けている事実を知ってショックを受けていたジョイには、子供の頃にこんなつらい思いをした過去があったのか・・。
「よしっ出資しよう!」
そして、ユズは見事に40万ドルをすべて持っていかれました。
このくだりは、ドラマ内の一部なのでメインのお話はこの「詐欺にあったー、くそー」の部分ではないのですが、このユズが詐欺に合う一連のお話はまさに騙されるまでのストーリーが濃縮されています。
最後に出資してしまった理由は、そこに至るまでのストーリーにユズが心を動かされたからであって、当初は自分の今の状況と出資金額を冷静に見比べて正常に判断していたのです。
寄付金を渡されてから、農園の話を聞き、細かいストーリーを聞かされて考えが変わっていくように、すべて詐欺をする側が誘導していますよね。
ジョイが最初に5万ドルの寄付金をユズに渡すところは、投資詐欺をする側が最初の頃はきちんと騙す相手である出資者達に配当金を支払うのと同じメカニズムなわけです。
今回の「エクシア」も、出資していた人たちは投資するに見合うだけのストーリーを聞かされて、出資していたかたがほとんどだと思います。
騙す方は、以下のような武装をしています。
- 信頼できる人=偽物の経歴をあらかじめ作っておく
- 良い人=自分の過去などを偽りなく話し共感を得る
- 話が上手な人=相手を気持ちよくさせてくれる
上記のような特徴のある人が、まだ会ったばかりなのにお金が絡む話をしてきたら、とにかく気をつけましょう。
詐欺をする人は、ジョイのように最初は悪い人には見えないものなのです。