世間を騒がせたフジテレビの親会社である「フジ・メディア・ホールディングス(以降、フジHD)」が3月に決算となり、先月5月16日に決算を発表しました。
あの「中」から始まって「広」で終わるタレントのせいで、フジテレビの凋落ぶりからメディアコンテンツ事業は終わったと囁かれてきました。
親会社である「フジHD」に関しては不動産などの収益基盤が盤石だったので、フジテレビの不祥事はそれほど影響ないだろうという見方でした。
あのタレントについて自分の小学生時代を思い出した話はこちら
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例のタレントを見ると思い出す先見の明
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ところが「フジHD」の決算発表でびっくり仰天のニュースとなったのは、「今期201億円の赤字」となっていたからです。
昨年の370億の黒字から一気に200億の赤字へと転落したわけですから、「やっぱりフジテレビが足を引っ張ったか・・」と思った人も多かったのではないでしょうか。
結構ニュースで取り上げられていましたからね
さて確かにフジHDの直近1年間は、利益が大幅に減少したでしょう。
では、純利益以外の利益部分も確認してみます。
売上ベースで見てみると、数字は約200億の赤字が出るほど変わってはいません。
さらに売上から経費を差し引いた「営業利益」を確認するとなんとプラス182億、「経常利益」も黒字で終えているのです。
でもトータルの純利益は200億の赤字ですから、つまり経費や営業外収支ではないところで年間の収益をマイナスにする要因があった、というわけです。
ここまでは証券会社などの各銘柄情報だけを見れば分かります。
もう少し細かい内容を確認するために、URLからフジHDのホームページへ飛んで決算短信を見てみましょう。
決算書の内「P/L」を見てみると、「減損損失」と「法人税等調整額」が大幅に増えているのが分かります。
「法人税等調整額」が前期より増えている、つまり支払う法人税が増えたのは、「繰延税金資産を取り崩した」からです。
減損損失
企業が保有する固定資産(建物、機械装置、土地など)の収益性が低下し、投資額の回収が見込めなくなった場合に、その帳簿価額を実態に合わせて引き下げる会計処理によって発生する損失です。
この減損損失は、損益計算書上では「特別損失」として計上され、当期純利益を減少させます。
繰延税金資産
将来、会社が払う税金が減る(得する)原因があって、その分の税金を今のうちに予測して、資産として計上しておくものになります。
大企業は会計上の「利益」と税務上の「所得」は一致しない場合が多く、これらを調整する科目となります。
例えば・・
将来回収できないかもしれない売掛金などに対して、会計上は、今期に費用として計上できますが、税務上は実際に貸し倒れが確定しないと費用として認められない場合があります。
この場合、会計上の利益は減っているのに、税務上の所得はまだ減っていません。
しかし将来実際に貸し倒れが確定すれば、その分税務上の所得が減り、税金が安くなると予想されます。
この将来支払う税金が安くなるかもしれないけど、その分を資産としてあらかじめ計上しておく処理になります。
繰延税金資産を取り崩す
何期も続けて「繰延税金資産」を計上してきたとします。
これは将来の税金負担が軽減される見込みがある場合に計上されるものです。
言ってみれば、「将来の会社の利益」を先取りしていたのにその見込みが崩れれば、打ち消さなければなりません。
それが「取り崩す」という処理になります。
資産計上していたものを取り崩す「法人税等調整額」という費用項目となります。
こちらも損益計算書上に記載され当期純利益を減少させます。
ちょっと難しい話ですね。
簡単に言えば会社が持っていた資産500の内、100の価値を計上していた部分について「減損損失」と「繰延税金資産の取り崩し」で30くらいに落としたと思ってください。
資産の価値が減少したので、その分会社の利益が減ってしまいました。
この2つだけで全部で360億円のマイナスとなっているので、全体的な会社の利益が下がって最終的に201億円の赤字となってしまったわけです。
さてここでもう一つ注目したい点として、会社の体力である「キャッシュフロー」について見ておきましょう。
キャッシュフロー計算書の当期期末残高は、約1,230億円となっていて、前期から約241億円も増えていますね。
つまり資産価値の減少は会社の会計上の利益を減少させるものの、キャッシュフローには影響のない部分なので、201億円の赤字の実態は「多く見積もっていた資産価値を大幅に下げたから」と言えるでしょう。
会社の業績そのものは、とりわけ大騒ぎするほど悪かったわけではないのです。
その流れで2026年の当期純利益予想は以下のように発表されています。
現時点で100億円の黒字を見込んでいますから、会社全体で見ると「なかひろさん(誰?)」の問題は、営業活動に何の影響もないようですね。
不動産を持って安定的なキャッシュを得ているのもやはり大きいでしょう。
というわけで今回はお騒がせだった「フジHD」の決算書で注目すべき点を確認してみました。
本来なら「粗利がいくらいくら」とか「経費がかかって営業利益が減少した」とか「P/L」の上の方ばかりに注目してしまいそうです。
しかし大企業の場合、資産価値を減らしたり、税金の支払いに関する部分で簡単に利益が増減される、という点にも注視しておきたいところですね。