投資をこれから始める人や始めたばかりの人が、最初に選択する金融商品として「投資信託」というのは人気がありますよね。
何を買ったらよいか分からない駆け出しの投資家にとっては、運用のプロにお任せできる”投信”は魅力的な金融商品の1つとなっているようです。
さて、そんなお手軽に投資できる「投資信託」も、実は「任せっきり状態」というのはあまりよろしくありません。
特に、あなたが以下のような気持ちを持っているとすれば要注意です。
気持ちはいかに・・
- 面倒くさいから任せたい
- よく分からないから任せたい
- プロに任せた方が安心だから任せたい
今回からの連載で少しでも、「自分で投資信託を選び、自分で資産を管理する」という気持ちを持っていただけると嬉しいです。
今回は、第一回目なので、投資信託の基本である「基準価額」について分かっているようで、実は見落とされがちな点を一緒に見ていきたいと思います。
※なお、本記事の証券口座の画面はすべて楽天証券となります
基準価額とは
「基準価額」とは、投資信託(以降、ファンド)の値段になります。
「純資産総額」は、投資家から集めた資金とその運用成果を時価で表したものです。
つまり、ファンドの運用資金となります。
上の画面は、証券口座内の投資信託のページから「国際インド債権オープン(毎月決算型)」(以降、インド債権)というファンドを開いたところです。
投資信託の内容をぱっと確認した時に、
- 「基準価額」の高い・低いでそのファンドを割高・割安に見たり
- 「純資産総額」の多少でそのファンドの規模が大きい・小さいと見たり
まず、だいたい最初に目につくところだと思います。
もう一つ、「つみたて4資産均等バランス」(以降、つみたて4資産)というファンドも開いてみました。
さて、ここで考えてみます。
「基準価額」が「インド債権」で表示されている6,777円よりも高い「つみたて4資産」はファンドとして優れていると判断できるでしょうか。
実は、ファンドの値段である「基準価額」だけでは、どちらが優れているかは分からないのです。
3つの比較できない理由
「インド債権」と「つみたて4資産」の「基準価額」を比べた時に、どちらが優秀なファンドであるかを選べない理由は次の3つになります。
- 分配金を出すか出さないか
- 投資先は同じか違うか
- 設定日は同じか違うか
それでは順番に見ていきましょう。
分配金を出すか出さないか
ファンドには、分配金を「まったく出さない」ものから「年に1回配分」、「毎月配分」などその配分方法が様々あります。
「インド債権」は、ファンド名にもある通り「毎月分配金を支払う」ものになります。
投資家には、この手の「毎月分配型」は人気が高かったりするのですが、分配金の原資はファンドに集まった運用資金である「純資産総額」から払い出しされます。
つまり、大事な運用資金の一部を分配金支払いのために現金化し、「インド債権」を購入している投資家全員に戻しているだけにすぎません。
そのため、分配金払い出し後は「純資産総額」が減り、「基準価額」も下落します。
目論見書に記載されている
上の画面は「インド債権」の本記事執筆時最新の「目論見書」になります。
分配金を払うファンドの目論見書には、このようにきちんと説明されているのですが、分配金は「純資産総額」の外側のあぶく銭から支払われている、と勘違いされる方も多いようです。
※ファンドの成績が良く純資産が増えても、分配金はその純資産の中から支払われるので、必ず基準価額は減少します。
ファンドの「純資産総額」、つまり運用資産は以下の式で求められます。
純資産総額=基準価額(投資信託の値段)×口数(投資家全体の購入数)
※純資産総額が減少すれば、同じ口数で計算すると基準価額も減少する
つまり、分配金を払った投資信託だけは、それだけで「基準価額」が下落するわけですから、単純に「基準価額」の高い・低いだけでは比較できないのですね。
投資先は同じか違うか
次に、投資信託の投資先についても確認してみたいと思います。
下の内容は、「インド債権」の目論見書の投資対象に関するページです。
ファンド名だけを見ると、インドの国債や社債を中心にポートフォリオを組んでいるようですが、インドのみならず各国の債券も組み入れて運用しているようです。
また、社債に関してはインド企業が100%出資している「子会社」に限りインド以外の国でも社債を購入しているようです。
国債や社債で安定的な運用を目指している一方、流動性・信用性を考慮して米国や欧州、日本などの先進国債券や社債も含めているわけです。
一方、「つみたて4資産」の投資先は、目論見書で以下のように記載されています。
こちらは、国内・国外債券だけでなく、国内・国外とも株式にも資金を投入し、すべて25%比率の均一で運用するファンドになっています。
先進国株式に資金を投入しているので多少リスクを取っていますが、TOPIXなど3つのベンチマーク(合成ベンチマーク)と連動させる「インデックス型」となっているようです。
インデックス型とアクティブ型
「インデックス型」は、市場の平均と連動した利益を目指す。手数料が割安。
「アクティブ型」は、市場の平均を上回る利益を目指す。手数料が割高。
一方は、インドを中心とした公社債のみ。
もう一方は、先進国を中心とした株式と国債の併用。
投資対象がこれだけ違うのに、この両者の「基準価額」だけを見てどちらが優れているかはもちろん判断できませんね。
設定日は同じか違うか
例えば投資対象が同じで、分配金の支払いもない2つの似たようなファンドを比較した場合に、設定日が違うとやはり「基準価額」では良し悪しを比較できません。
上の画面のように、証券会社の投資信託の項目で、個別のファンド名のページを見ると、「設定日」を確認できます。
「設定日」は、ファンドの運用が開始された日ですが、この時の基準価額は「10,000円」から始まります。
例えば、米国株式に投資する「インデックス型の投資信託」で、対象インデックスに「S&P500」を採用している”A”というファンドがあるとします。
このAファンドは、「設定日」が2018年4月1日で、この日の「S&P500指数」は4,000だったとします。
一方、同じ条件の”B”というファンドは、設定日が2019年5月1日で、この日の「S&P500指数」は7,000だったとします。
Aファンドは、「S&P500指数」が4,000の時に、基準価額10,000円から損益が上下しながら運用されていきます。
一方、Bファンドは「S&P500指数」がAファンドよりも3,000多い時点で基準価額10,000円から運用が始まります。
そのため、同じ指数に連動する2つのファンドであっても、設定日が違うと基準価額も大きく変わってくるのです。
この場合も、やはり「基準価額」だけで良し悪しは判断できません。
まとめ基準価額の高低と善悪は別
「基準価額」は、投資家がファンドを購入する際の値段ですから、どの証券会社も当然大きく一番見やすいところに載せます。
比較をせずに、単純に「基準価額」が安いからそのファンドの量を多く買える、という考えはあるかもしれません。
基準価額が安ければ、10,000円分購入する場合多くの量(口数)を買えるという意味です。
色々なファンドを比べた時に、”「基準価額」が安い方が割安”、”「基準価額」が高い方が割高”とはなりません。
さらに言えば、全然投資対象が違うファンド同士をどちらが優勢かなどと評価もできません。
ファンドを購入する際に、意外と基準価額同士を比較して少しチャートを見て安易に購入してしまう方も多いので、「投資先」や「ファンドの手数料」、「インデックスかアクティブか」などを総合的に俯瞰するようにしたいものですね。
『ファンドの投資対象を安易に判断しない方法』や『手数料や分配金などの運用にまつわるお金のお話』なども本連載で少しずつお話していくつもりです。