株を買った瞬間から値下がりして何となくそのまま保有している、もしくは「優待銘柄」として長期保有が前提となるなど、ただ持っているだけの銘柄があったりしませんか?
そんな時は、保有している株を証券会社経由で貸し出して、貸し出した期間に応じて金利がもらえる「貸株サービス」を利用してみましょう。
出所:楽天証券
なお、「貸株サービス」とは「現物取引」で保有中の株を貸し出せるサービスを言います。
今回のテーマでは、「貸株」を利用する場合の注意点や動作環境について、各証券会社での利用方法なども交えながら探ってみたいと思います。
NISA口座で運用されている株は利用できない
まず、大前提としてどの証券会社であっても「NISA口座」で運用されている株は、原則「貸株サービス」を利用できません。
「NISA口座」を設定している証券会社の「自分の口座」に持っている株が、「NISA預かり」となっていないかをまずは確認してみましょう。
以下に該当する場合は、「貸株サービス」が利用できるので自分の口座を確認してみてください。
- 複数の証券会社を使い分けていて、「NISA口座」を設定していない証券会社で株を運用している
- 「NISA」の枠を使い切って、「一般/特定口座」で運用している株がある
『「NISA口座」でしか株を運用していなかったなぁ』という場合は、残念ながら今回のお話は該当しませんので、ここで読み終えても結構ですよ。
それでは、まず各証券会社の貸株利用環境を見ていきましょう。
5つの証券会社で貸株環境を確認
「貸株」は、現物株と信用株のどちらも貸し出し可能ですが、まずは現物株について主要ネット証券5社を一覧表にしてみました。
証券会社に貸した株が、さらにその先の機関投資家などに貸し出されて、私たち投資家に受け取れる金利が発生するわけですが、各証券会社で対応に若干の違いがありますので、その辺りを順番に見ていきたいと思います。
楽天 証券 | SBI 証券 | マネックス 証券 | auカブコム 証券 | 松井 証券 | |
---|---|---|---|---|---|
自動返却設定 | ・金利優先 ・株主優待優先 株主優待/予想有配優先 | ・優待優先 ・金利優先 | ・配当金自動取得サービス/株主優待設定(一括) ・優待優先(個別設定) | ・なし(個別のみ) | ・貸株金利優先 ・株主優待優先 ・権利取得優先 |
売却タイミング | いつでもできる | ||||
配当金相当額 | あり | ||||
権利獲得後に株式は自動で | 貸し出される | 貸し出される | ・一括は自動で貸し出される ・個別は手動 | 貸し出される | 貸し出される |
銘柄ごとの貸し出し動作 | ・全貸(すべて貸し出す) ・未貸(すべて貸し出さない) ・一部未貸(一部貸し出さない) | ・全部貸出 ・内〇〇株除外 ・貸出なし | ・貸株対象のオンオフと 非貸株数量の入力 | ・(優待を)取得する ・(優待を)取得しない | ・全部貸出す ・全部貸し出さない ・一部貸し出さない |
新規購入時の貸し出し動作 | ・自動貸出設定(自動で貸出す/貸出さない)で設定する ※銘柄別でもできる | ・貸し出しがデフォルト ※貸し出さない場合は銘柄ごと | ・貸し出しがデフォルト ※貸し出さない場合は銘柄ごと | 手動 | ・貸し出しがデフォルト ※貸し出さない場合は銘柄ごと |
参考外国株での貸株 | なし | あり | なし | なし | なし |
ごちゃごちゃと少し複雑ですが、「貸株」で投資家が特に気になる点としては、以下の3点が挙げられるでしょう。
- 株を証券会社に貸しても株主優待を受け取れるのかどうか
- 株を証券会社に貸しても配当金を受け取れるのかどうか
- 株を証券会社に貸しても自由に売却できるのかどうか
その疑問を解消するために、表の行タイトルを順番に解消していくとしましょう。
自動返却設定
この「自動返却」は、証券会社に貸している株が株主優待や配当金を獲得できる「権利付き最終日(権利確定日の2営業日前)」に自動で返却申込され、「権利確定日」に株が返却されるサービスとなります。
上の疑問点で言えば、ここだけで「1」と「2」が解消してしまいます。
つまり、優待も配当金(もしくは配当金相当額)も受け取れます。
今回の5社で言えば、「auカブコム証券(以降、au)」以外は、保有している貸株対象銘柄全体にこの自動返却を設定できます。
「au」に関しては、「優待を優先するかしないか」を保有している銘柄個別ごとにしか設定ができません。
楽天
「楽天証券(以降、楽天)」は、「貸株金利」、「優待」、「優待/配当」に重点を置いた3つのコースを用意しています。
「楽天」は唯一「貸株金利」を優先した場合に、「権利確定日の利率を通常の5倍(100%上限)」としています。
3つのコースとも貸株対象銘柄すべてに対応します。
金利優先
「権利確定日」も株を貸しているため、この日は利率が通常時の5倍(100%上限)になります。
優待の権利を放棄し、配当金の代わりに「配当金相当額」をもらいます。
株主優待優先
配当金の代わりに「配当金相当額」をもらいます。
株主優待・予想有配優先
SBI
「SBI証券(以降、SBI)」は、「貸株金利」、「優待」に重点を置いた2つのコースを用意しています。
2つのコースとも貸株対象銘柄すべてに対応します。
金利優先
優待の権利を放棄し、配当金の代わりに「配当金相当額」をもらいます。
優待優先
優待を優先するため、自動返却をうタイプです。
優待の権利を獲得し、配当金の代わりに「配当金相当額」をもらいます。
「配当金」を獲得するために自動返却するコースは「SBI」にはありません。
もし、「配当金」を手に入れたい場合は、後述する「個別銘柄設定」で、各銘柄ごとに「貸株なし」を設定して「配当金」を入手するしかありません。
マネックス
「マネックス証券(以降、マネックス)」は、少しタイプが違うのですが、「貸株サービス」を利用するようにした後、何も設定しなければ「貸株金利」だけに特化し、優待や配当金のための自動返却はありません。
もし、優待と配当金の両方とも獲得するために貸株を返却してほしい場合は、「配当金自動取得サービス・株主優待設定」から「一括申込」をする必要があります。
一括申込すると、保有している「貸株対象銘柄」すべてに適用されます。
もし、優待だけが必要で、配当金は「配当金相当額」がもらえればいいのなら、「一括申込」を解除して、銘柄個別設定で「優待優先」を設定します。
※銘柄個別設定では、優待だけを獲得し、配当金を獲得するための返却は行われません。
上の表内の「一括」と「個別設定」が正にこの説明です。
つまり、マネックスの場合、貸株金利だけ受け取れればいい場合、「貸株サービス」を使えるようにすれば、その後の全体的な設定は何も行わなくてもよいわけです。
松井
「松井証券(以降、松井)」は、「貸株金利」、「優待」、「優待と配当金」に重点を置いた3つのコースを用意しています。
3つのコースとも貸株対象銘柄すべてに対応します。
貸株金利優先
優待の権利を放棄し、配当金の代わりに「配当金相当額」をもらいます。
株主優待優先
配当金の代わりに「配当金相当額」をもらいます。
権利取得優先
売却タイミング
本来自分が保有している株を他人(証券会社)に貸している状態が「貸株」になります。
つまり、貸している間は株の売却ができないのではないか・・と思う方もいるでしょう。
これが疑問点3に挙げた『好きなタイミングで売却できるの?』となるわけですが、これについては上に挙げた5つの証券会社とも『いつでも売却できる』としています。
例え、「株を貸していて手元にない」時でも保有している状態と同じように、一旦返却などの手続きもいらずに売却できるというわけですね。
配当金相当額
どの証券会社でも、「貸株金利」や「優待」を優先した場合の「配当金」の扱いについて、証券会社が「配当金相当額」を支払うようにして調整しています。
※「au」の貸株は、配当金をすべて「配当金相当額を支払う」対応としています。
つまり、株式を発行している会社から本来もらえるはずの「配当金」はもらえないのです。
「楽天」の「株主優待・予想有配優先」と「松井」の「権利取得優先」は配当金を獲得します
「貸株金利」よりも「配当金」を優先させたい、というコースが5つの証券会社の内、上記2つだけしか対応していません。
「配当金相当額」を「配当金」の代わりに支払うので、配当金の獲得をあえて目指していないのかもしれませんが、「配当金」と「配当金相当額」には税金面に大きな違いがあります。
配当金と配当金相当額の違い
「配当金相当額」は「雑所得」となり、給与所得などと合わせた「総合課税」になります。
「雑所得」は、年間20万円以下であれば申告不要(年収2,000万円以下の給与所得者)ですから、「雑所得」分の税金がかからない場合もあります。
本来、もらえる「配当金」から源泉徴収税分(20.315%)を差し引いた金額が「配当金相当額」として証券会社から支払われますから、金額に関してどちらかが圧倒的に損をするわけではありません。
ご自分の所得状況や申告状況と合わせて、どちらでもらった方が得かを判断する必要がありますが、「年率0.1%」が一番多い貸株金利だけで「雑所得」の申告不要である『年間20万円』に到達するには相当な量の株式を持っている必要があります。
したがって、「雑所得」となる「配当金相当額」でも”特に問題ない”という人の方が多いと思います。
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権利獲得後の貸し出しについて
「優待」や「配当金」がもらえる「権利付き確定日」に、貸し出している株式が自動で返却されますが、権利確定後に改めて貸出する際も自動で貸し出し処理をしてくれるかどうかがこの項目になります。
「マネックス」以外の4つの証券会社で、自動で貸し出し処理をしてくれます。
4つの内「au」だけは、優待をもらう設定が「個別銘柄」しかできませんでしたね。
それでも、各個別銘柄で権利確定が終われば、投資家が手続きをしなくても自動で貸し出ししてくれます。
「マネックス」だけは、自動返却で「一括申込」をしている時だけ、「権利確定後」の貸し出しを自動で行ってくれます。
「優待」だけを優先する「個別設定」で設定している時だけ、「権利確定後」は、投資家自身が手動で再度貸し出し手続きを行う必要があるのです。
銘柄ごとの貸し出し操作
自動返却設定で、「貸株金利」や「優待」を優先する設定は、保有している貸株対象銘柄全体に対してでした。(※「au」は除く)
全体での設定と合わせて個別銘柄に対しても「貸し出す」、「貸し出さない」を設定できます。
「楽天」と「SBI」、「松井」の3社に関しては、「全部貸す」か「全く貸さない」か「一部だけ貸す」の3種類を選択できるようになっています。
「マネックス」は、貸株対象の保有銘柄全体に優待や配当金を優先する「一括申込」を解除して、「個別設定」で各銘柄ごとの設定を行うのでしたね。
この「個別設定」の際に、「銘柄を貸株対象にするかどうか」のオンオフを切り替えて設定できるようになっています。
そして、「オン」にした場合に、合わせて「非貸株数量」を入力して「貸株にしない数量」を設定できるのです。
「au」は、元々各銘柄ごとの個別設定しかできませんので、それぞれの銘柄で「優待を優先するかしないか」を選択するようになります。
新規購入時の貸し出し動作
「貸株サービス」を利用しているのであれば、新規で貸株対象銘柄となる株を購入した場合に、自動的に株を貸し出してほしい時もありますよね。
「SBI」、「マネックス」、「松井」の3社は、「貸し出しがデフォルト」になります。
つまり、何も設定しなければ、新規購入株が自動的に「貸株」となり、貸し出したくない場合だけ個別銘柄ごとに設定します。
その後、「自動返却設定」で見たように、「貸株金利優先」、「優待優先」などの設定に沿って、「権利付き最終日」に自動返却されるようになります。
「楽天」は、新規購入株の場合に、貸し出すか、貸し出さないかを事前に「自動貸出し設定」で決められます。
「貸し出さない」を選択した場合、新規購入株を貸し出すときは、手動で「貸し出す」設定をする必要があります。
「au」に関しては、新規購入株を自動で貸し出す設定がないので、すべて個別銘柄ごとに手動で「貸し出す」設定を行う必要があります。
参考外国株での貸株
現在のところ、外国株式の貸株サービスに対応しているのは、「SBI」の「カストック」のみとなります。
日本と同じように、「配当金」でもらう場合と「貸株金利」でもらう場合で、税務上の取り扱いに違いがあったりしますが、基本的に国内株式と同じように外国株式を貸し出して金利を獲得できるようになっています。
貸株のメリットとデメリット
各証券会社の「貸株」のサービス状況を見て、疑問点も解消できたところで、「貸株」のメリットとデメリットをまとめておきたいと思います。
メリット | デメリット |
---|---|
ただ保有している株から金利が発生する | 貸株金利を優先すると優待がもらえない |
手続きなしにいつでも売却できる | 継続保有特典つきの優待が得られない可能性がある |
優待を得るための自動返却サービスがある | 貸した株券は投資者保護基金による保護の対象から外れる |
配当金がもらえる (もらえない場合でも配当金相当額がもらえる) | 配当金相当額だと雑所得になり、配当金の配当控除や上場株式の損益通算ができなくなる |
まとめNISAから外す必要はない
さて、今回は「貸株サービス」の各証券会社の状況を見てきたわけですが、まず大前提に挙げたのが「NISA口座では使えない」というのがありましたね。
『株を貸すだけで金利がもらえる』と言うと、なんとなく貸株金利に目を向けたくなるかもしれませんが、「NISA口座」で非課税で運用できる枠があるなら、「NISA口座」で運用した方がいいでしょう。
複数の証券会社を使い分けていたり、NISA枠を使い切ってしまった上で、一般口座で運用中の株がある場合は、「貸株金利」を利用してみるのもいいと思います。
「貸株」は、インターネット取引ができて電子交付を確認できる方が対象となっているので、ネット証券で利用できるサービスとなっています。
「優待」や「配当金」をもらうための一時返却や、権利確定後に再貸し出しを自動で行ってくれるサービスなど、貸し出しと返却に関わる面倒な手続きがなく利用できて、金利をゲットできるのがいいですね。
金利は、その時々で変動しますが、高金利だと10%を超える銘柄もあったりします。
ただ、気を付けたいのは高金利銘柄に目がくらんで、その株自体の信用度や業績などを無視してしまう購入方法ですね。
「貸株金利」はあくまでも、おまけとして付いてくる認識は持っておきたいものです。
さて、次回はもう一度「貸株」についてですが、今度は「信用取引」での「信用株」について見ていきますのでどうぞお楽しみに!