政策金利が上がり、各金融機関はこぞって顧客の預金獲得に向けて様々なサービスを始めています。
中でもPayPay銀行の「預金革命」はなんと「円普通預金の金利2%」を提供してくれると言います。
そんなうまい話があるわけ・・・。
そう疑ったかたは正解かもしれません。
この「預金革命」がなぜ預金顧客獲得に向けた罠になっているのか見ていきたいと思います。
円の普通預金で金利2%のなぜ
現在、日本の金利が上がったとは言え、各金融機関の円の普通預金は軒並み「0.2%」ほどです。
それが、PayPay銀行の普通預金に円を預けると、金利を「2%」まで上げてくれると言います。
もちろん、ただ円を預けただけでは「2%」にはならないのですが、その条件が実は分かりにくくなっているのです。
それは「円預金とアメリカドル預金(以降、ドル預金)を併用しなければならない」からです。
「革命」と謳っている「円の金利2%」とドル預金にはどのような関係があるのでしょうか。
ドル預金の金利2%は高い?
「預金革命」では、円の普通預金とドル預金を併用しなければなりません。
大前提として円の預金口座とは別に外貨預金口座の開設を行う必要があります。
特に口座開設に料金が発生するわけではないので、「預金革命」の金利に釣られて口座を開設したというかたもいるかもしれません。
元々外貨預金口座を持っていれば円・ドルの預金でそのまま「預金革命」の金利が適用されますし、口座を持っていない場合も口座開設だけですぐできるのであまり深く考えないで突き進んだかたもいるでしょう。
まず一つ「金利2%」を実現するために大きな条件であるドル預金ですが、円の預金額と同じにする必要があります。
つまり100万円の余裕資金がありそれを預ける場合、円とドルをそれぞれ50万円ずつ預けなければなりません。
円の50万円につく金利2%は高いですが、ドルの50万円につく金利2%は決して高くないのです。
というのも現時点でアメリカの金利は4%ほどになっているからです。
ドルを持っておくと4%の金利がつくはずなのに、「預金革命」では2%にしかならない。
では差額はどこで埋めているかというと・・・もうお分かりですね。
円が2%になっているのは、ドルの金利を下げている分を円にくっつけているに過ぎないのです。
預金革命の条件として設定されている「ドル預金と円預金を同じ金額にしなければならない理由」もここにあります。
外貨預金と同じ性質の金融商品
外貨預金だけで見てみると、2%という金利は他の金融機関よりも高めです。
しかし外貨預金と同じような金融商品に「外貨建てMMF(以降、MMF)」というものがあり、これは外貨で運用される投資信託の一種となります。
主に短期のアメリカ債券やコマーシャルペーパー(CP)などの安全性の高い金融商品で運用され、比較的リスクを抑えながら外貨での運用が可能となっています。
外貨預金 | MMF | |
---|---|---|
為替リスク | あり | あり |
為替手数料 | あり | あり |
金利 | 国内金融機関は低い | 債券などへの投資なので高い |
購入できる場所 | 銀行 | 証券会社or一部の銀行 |
NISA | 対象外 | 対象外 |
今回の話は現在持っている円を外貨にする前提なので、為替リスクや為替手数料は発生します
日本の国内金融機関で外貨を預金しても金利は高くありませんが、アメリカ国債など安全資産に投資しリスクの低い「MMF」では当然金利が高くなります。
為替に関するリスクが同じで、投資商品としてのリスクも同じなのであれば、アメリカの政策金利に近い金利を獲得できるMMFに投資してもほぼ同じでしょう。
実際に色々想定してみる
では、余裕資金100万円をどのように振り分けられたらいいのでしょうか。
税金、為替リスクなどを考慮しません。
MMFは4%の金利よりは少し下がりますが、4%で計算します。
50万円×4%=20,000円
【金利の高い1年定期預金などを使う】
ソニー銀行の1年定期特別金利(0.8%)
50万円×0.8%=4,000円
1年間で24,000円
50万円×2%=10,000円
【預金革命の外貨預金】
50万円×2%=10,000円
1年間で20,000円
100万円×4%=40,000円
1年間で40,000円
預金革命では円とドルを同じ量で預けなければ上記の金利が適用されないので100万円でも両方に50万円ずつの預金となり、1年間で20,000円の金利が手に入ります(上のグレーの枠)。
外貨預金と同じ性質のMMFを使えば50万円で金利20,000円を実現できます。
余ったもう50万円を1年の定期預金などで金利キャンペーンなどの少し高い金利を実施しているところに振り向けると、トータルで24,000円となり4,000円も高くなります(上のイエローの枠)。
100万円すべてMMFでもいい、というのであれば金利は40,000円になりますね(上の赤い枠)。
比較してみると、預金革命の金利は全然お得ではないと分かってきますね。
もし途中で10万円分のドル預金を引き出した場合、円預金の2%適用範囲はドル預金の残高に連動するので、自動的に40万円分となり残りの10万円分は通常の金利(預金額によってステップアップ金利)になります。
4%は超えられない
結局「預金革命」は、MMFを使えば得られる4%の金利を外貨預金と円預金の金利に振り分けただけで、4%を超える金利を設定できないのです。
強いて言えばどちらも普通預金なのでいつでも引き出せるのがメリットですが、ここからさらに余裕資金が10万円できた時に、円預金にだけ10万円を入れられず、この10万円分も金利4%を維持させるためにはドルと円で5万円ずつ均等に預けなければなりません。
預けるお金の半分は常に為替リスクがつきまとうわけですね。
(まとめ)革命ではなかった
「預金革命」と言うほどの革命ではなかったですね。
MMFは証券会社で購入できますが、証券口座を持っていないかたはMMFを購入できる金融機関は限られます。
そのため銀行預金をメインにしている人にとっては、預金革命のような外貨預金と円預金のセットで金利4%という商品は惹かれるかもしれません。
でも上で見てきたように、ドル預金と同じようなローリスクの商品と定期預金なども含めた円預金のセットで様々なパターンを計算してみると、決してお得ではないと気が付くでしょう。
銀行側のメリットで言えば、支払う金利を抑えた状態で手っ取り早く100万円を集めるために考え抜かれたサービスとなっているわけですね。
ちなみにこれを各方面から暴かれたせいなのかどうかは分かりませんが、今月新たにステップアップ預金という新たな革命が始まったようです。
預金金額が大きくなれば金利0.2%が最大0.4%になるそうで、特別な条件もなくこれくらいの上り幅の方がまだ納得できそうですね。