昨年、NISA制度が新しく生まれ変わったのをきっかけに、少し金融資産を有価証券に振り向けてみようか、と考えた人がいました。
このかたは、特に金融資産をたくさん持っているわけではないそうですが、お子さんがいないため奥さんとのこれからの生活を考えた時に「労働とは別の収入源があれば」という思いで投資を始めたそうです。
そして、御多分に漏れず、やはり2024年8月の暴落で慌てふためき、12月の暴落で一年間の収支が芳しくなく終わってしまったと落胆した顔で言ったのでした。
このかた、「投資初心者である」とはっきり言っていたのですが、NISA口座についてはきちんと勉強したらしく、新NISAから投資を始めたにもかかわらず旧NISAについてもその制度についてよく理解をしていました。
自分は旧NISA口座で証券を持っていなくて良かった、と。
旧NISA口座での保有証券は取得から5年後には一般口座に戻りますが、自分の購入する証券はすべて新NISA口座だから期限を気にする必要はないし安心して投資できる、とおっしゃっていたほどです。
さらに、「利益が発生しても税金を取られないというのは大きい」、「少しマイナスになったとしても余裕資金で投資を行うのでそれほど怖くない」、と笑顔で話していたのを懐かしく思い出しました。
特に、投資情報誌や有料の情報を手に入れているわけではなく、口座を持っている証券会社からの情報とサイトの内容を中心に、購入する銘柄やファンドを決めていたようです。
資金を投入しながら、会社の業績などを図る指標の見方なども勉強し、人気の銘柄や配当株の銘柄などを中心に順調に投資生活の一歩を踏み出したのです。
8月までは。
当初は我慢して静観していましたが、暴落の度合いが思っていたよりも深刻だったため、「これはまずい」と慌てて売却したようです。
その後の市場の結果は皆さん知るところだと思います。
暴落が落ち着いて、再度チャレンジして購入したそうですが、暴落の恐怖からその時の余裕資金の金額では購入できなくなり、その後の成績はご自分が思っていたものとは違ったようで、難しい顔をしながらこのように語っていました。
「結構、勉強したんだけどね。最終的に利益になればいいと思ったけど、甘くなかった・・。」
投資を始めたばかりなのに、あれだけの市場の急変が起きたのは本当に災難だと思った一方で、あれだけの暴落は群衆の恐怖の結果なので、勉強の結果で回避できるものではないよな~、とも思いましたね。
そして、そのような市場の急変を敢えて作れるような大口機関投資家やヘッジファンドもいるので、一会社の業績や市場平均などを評価できるようになっても思っている通りになど動くわけもないのです。
筆者は、このかたに投資の世界だけにある「怖い話」をしました。
それは、スポーツや将棋などのボードゲームにある「プロの世界」というのが投資の世界にはない、というお話です
つまり、株式市場に参戦する人はプロも初心者も関係なく同じフィールドに立ちます。
野球であれば、仮にランダムに集めた高校生で即席野球チームを作ったとしてもプロ野球チームには勝てないでしょうし、「外野を5人、内野を5人、キャッチャーの後ろにもう一人守ってもいいよ」とハンデを上げてもプロのチームにはまず勝てないでしょう。
そのルールで大学野球チームがプロと戦ったら、もしかしたらという可能性はありますが、メジャーリーグのオールスターチームが相手となればまた難しくなるでしょう。
スポーツなどは、アマチュアの世界の先にプロの世界があり、同じプロでも国別で違うリーグがあり、と勝負の場面がはっきり分かれているのに、投資の世界だけはそれがありません。
つまり、うまくいかなくて当たり前なのです。
そして、場数を踏むためにはまたこの市場へと戻ってくるしかないのです。
初心者にお勧めとされる「積立投資」や債券やゴールドなど暴落の少ない投資も一部持っておくなどの戦略も必要になってくるし、市場で戦い続けるためには、実際に参加して経験するしかないのです。
「そうか、なるほど・・。」と頷きながら、また出直すよ、と言って帰っていった彼の後ろ姿は少しだけふっきれたようにも見えました。