銀行や証券会社で口座を作成すると、不定期に「仕組債」や「仕組預金」の案内が来たりしませんか?
この「仕組」と名の付く金融商品を見てみると、金利が結構高めで気になってしまった方もいるかもしれません。
しかし、この「仕組債」、実は各金融機関で販売自粛傾向にあり、今後は販売停止もしくは投資経験などにより販売数量が限定されていくなど、取扱い数量が大幅な減少となりそうです。
今回は、投資を始めたばかりの方が「高金利のワナ」に陥りやすい「仕組債」について見ていきたいと思います。
仕組債とは
まず、「仕組債」の特長を確認しておきましょう。
仕組債とは
「債券」という名前でありながら、「スワップ」や「オプション」などの金融派生商品(デリバティブ)を組み込んでいて、「株式や金融指標の変化」という条件下で、高い利回りが期待できる。
もともとは、機関投資家などのプロ向け金融商品だったが、投資信託の回転売買が難しくなった各金融機関が個人投資家向けにも販売を推進するようになった。
端的に言えば、「債券」という名の付くハイリスクな金融商品を、銀行や証券会社が個人投資家にも販売するようになった、となります。
分類として債券になるので一見『低リスクなのでは?』と思うかもしれません。
しかし、満期償還金額の元本保証がされていないハイリスクでありながら、リターンはそれほど大きくなかったりします。
ただ、国債や社債などの一般の債券と比較すると利回りが高めとなるので、最近は個人投資家にもよく勧誘の案内がやってくるわけです。
つい手を伸ばしたくなる「仕組み」のある債券・・・その中身とは一体どういうものになるのでしょうか?
順番に見ていきたいと思います。
EB債と株価連動債
通常の債券にも、もちろん「リスク」は存在します。
新興国が発行している「国債」であれば、「カントリーリスク」が存在しますし、企業が発行する「社債」であれば、倒産などの「信用リスク」が存在します。
このようなリスクがいくつかありますが、発行された債券を償還期間まで保有できれば、額面金額は100%保証されます。
ところが、「仕組債」は本来の債券価格や利率とは無関係な「株価指数」や「株式の特定の銘柄」などに左右され、償還時の元本が100%保証されるわけではありません。
決められた条件下により、償還金額に特殊な仕組が用意されている分、利払い金額が高めになる、というものになります。
金融機関が販売する「仕組債」には、「EB債」と「株価連動債」といったものがあります。
EB債
「EB債」(Exchangeable Bond)は、満期償還日に現金で償還される場合と、対象銘柄(株式や上場投信)などの現物で償還される場合のどちらかで償還される可能性があります。
ある一定のライン(行使価格)を下回ると株式などの現物で償還されます。
株価連動債
「日経平均」などの株価指数の値動きによって、償還の条件が変わってきます。
「EB債」と違い、「株価連動債」は現金での償還となります。
「仕組債」に付く条件とは
「仕組債」は、一定の条件下で償還が早まったり、高い金利を受け取ったり、想定元本を大きく下回ったり、と様々な結果へとたどり着きます。
例として、ある株価の値動き(以降、対象A株)を参照する「EB債」を購入し、この「EB債」に条件が付いていたとします。
「対象A株」の値動きが以下のように5つのパターンで動いた場合をグラフにしてみました。
自サイト「投資情報バー」(現在閉鎖)より
「EB債」に設定されている条件に、「早期償還判定」と「ノックイン判定」がありますので、これらを先に確認しておきましょう。
早期償還判定
「早期償還判定」は、判定日に「対象A株」の株価が早期償還判定ラインを超えていれば、最終の満期償還日よりも前に早期償還されます。
ノックイン判定
「対象A株」が「ノックイン判定」ライン以下になると、最終満期償還日の時点で一定ラインの「行使価格」を上回らなければ、対象A株の現物と現金調整額による償還となります。
5パターンの償還時の結果
それでは、この「EB債」が満期償還するまでの5つのパターンから、最後の結果がどのようになるのかを見ていきたいと思います。
自サイト「投資情報バー」(現在閉鎖)より
最終の満期償還日よりも前に元本が100%保証され、強制償還となった判定日までの日数分の利率が高金利となります。
しかし、その後「対象A株」の株価は何とか回復して上昇していきました。
3度目の「早期償還判定日」で「早期償還判定」ラインを超えましたので、①と同様、最終の満期償還日よりも前に元本が100%保証され、強制償還となった判定日までの日数分の利率が高金利となります。
しかし、その後「対象A株」の株価は何とか回復して上昇していきました。
3回ある「早期償還判定日」でいずれも「早期償還判定」ラインを超えなかったので、最終の満期償還日まで到達し、満期償還日で何とか「行使価格」を超えました。
この場合も元本が100%保証され、利率が高金利となります。
「行使価格」よりも価格は低くなっていますが、③と同様、最終の満期償還日に元本が100%保証され、利率が高金利となります。
その後、株価が回復せず、「行使価格」まで戻りませんでした。
この場合は、満期償還日に「価格の下落した対象A株の現物」と株にできない端数を現金調整額として精算し、損失が発生しました。
「ノックイン判定」をひとたび下回ってしまうと、後は、「早期償還判定」で償還するか、満期償還日で「行使価格」を上回るのかを祈るだけとなります。
オプション取引のプットオプションの売りと同じ
この場合のオプション取引を簡単に言うと、「一定の保証料をもらう代わりに、損失が無限にあるリスクを背負い、利益はある時点から一定のままとなる」取引となる。
「条件付きのEB債」で言えば、「”高金利になる”という一定の保証料をもらう代わりに、損失は(0になるまで)無限にある一方、利益は「早期償還判定日」の「早期償還」ラインを超えていれば元本が100%保証されるだけ(一定になるだけ)」という取引。
実際はリスクの方が高いのですが、「早期償還」による元本保証と高金利を餌に、個人投資家にも勧誘が広がったわけです。
好不調の波が激しい銘柄だと・・
上の5つのパターンを見ると、4つで元本が100%保証され高金利になったので、何となく元本割れをしないように見えたかもしれません。
では、もし、「対象A銘柄」の好不調の波がもっと激しかったとしましょう。
下のような価格推移になったとします。
自サイト「投資情報バー」(現在閉鎖)より
「ノックイン判定」を下回ってしまったので、後は株価の回復を願ったところで、株価が上昇しました。
2回目の「早期償還判定」でもう少しで「早期償還」ラインを超えそうでしたが、あと一歩足りませんでした。
3回目の「早期償還判定」で、”あと一息!”というところで株価が下がってしまいました。
”やばい!何とか満期償還日まで「行使価格」を超えたところでもってくれぇ~”と願いましたが、祈りは届かず満期償還日を迎え、現物株での償還となってしまい、損失が発生しました。
この一喜一憂の感じって何かに似ていませんか?
そう、塩漬け株になる前に損切り、もしくは利食いタイミングを逃した時と同じような精神状態になっていますよね。
株取引との違いは、以下になります。
- 原則、途中でEB債を売買できない
- 強制的に「満期償還日」で償還になるので、「塩漬け株のようなほったらかし」は存在しない
債券とは名ばかりだというのがお分かりいただけたと思います。
リスク度合いの説明不足でトラブル多発
「仕組債」は、近年、販売側と投資家の間でトラブルが多発している金融商品なのです。
2022年の4月に、以下のような事案がありました。
勧誘に関する紛争
説明義務違反
仕組債
男性(70代後半)<申立人の主張>
被申立人担当者から仕組債を勧められ、購入し、約3,300万円の損害を被った。当該仕組債は、勧誘時、同担当者からノックインしても外国株式で償還されるので損失は出ない旨の説明を受け、商品性やリスクについて、理解できるような説明を受けないまま購入したものである。
説明義務違反を理由として、被申立人に対して被った損害の賠償を求める。<被申立人の主張>
被申立人担当者は、申立人に対し、本件仕組債を勧誘するに当たり、契約締結前交付書面等を交付し、商品性やリスク等について説明を尽くしている。さらに、申立人から説明を受け理解した旨の確認書を受け入れている。申立人は、十分な投資経験を有しており、理解力や判断力にも問題はなく、本件仕組債の商品内容及びリスクを十分に認識していたはずである。よって、申立人の請求に応じることはできない。証券・金融商品あっせん相談センター
おそらく、70代の個人投資家の方が購入した「参照する銘柄が”外国株式”という条件付きのEB債」が「ノックイン判定」を下回った後に、行使価格まで戻らず元本割れしたのでしょう。
「EB債」は元本割れした際に現物で償還されるので、対象銘柄である外国株式が償還されたと思うのですが、なぜ投資家の方は「外国株式の償還であれば損失が出ない」と思ったのでしょうか・・。
それだけ販売した証券営業マンの話術が巧みだったのかもしれませんね。
紛争だけを見ると『言った言わない』になっていますが、それだけ簡単に理解できる金融商品ではないですし、リスクも高いのが分かります。
出所:「金融庁」資産運用業高度化プログレスレポート2022
「債券でありながら高金利も狙える」という売り文句があると思われる「仕組債」ですが、上の図のように、他の金融商品と比較してもそれほどリターンの大きい商品ではありません。
株の銘柄や株価指数を参照するような関係性があり、株などと同じようなリスクを持ちながら、実はリターンがそれほど大きくないという「ハイリスク・ミドルリターン」の金融商品なのです。
その分、リスクは限りなく大きくなり、短期間で元本の8割を失った事例も見られます。
高い手数料と回転売買
「仕組債」の実質コストは投資元本に対して平均5~6%と言われています。
しかし、条件付きの「EB債」は償還期間まで「0.6年」と短い(早期償還)傾向もあり、その場合は8~10%となる高コストがリターンを押し下げる要因にもなっています。
これまで投資信託の販売で手数料を稼いでいた金融機関は、手数料が割安で長期投資向け商品が増えた投資信託では稼ぎにくくなり、このような一見複雑そうな仕組みを持ち手数料が割高な「仕組債」の販売に力を入れてきたわけです。
条件付きの「早期償還判定」からも分かるように、「早く償還してくれれば、さらに投資家へ営業販売できる」という手数料の回転売買に貢献した一方で、損失の発生した投資家との紛争の原因にもなりやすく、その結果冒頭でもお伝えしたように、販売に制限を掛ける金融機関が増え始めたのです。
まとめ
さて、今回の「仕組債」のお話は、まだ証券口座を作成したばかりだったり、投資を始めたばかりの方への注意喚起として書いてみました。
「仕組債」は、原則途中換金ができません。
そのため、販売側は販売以降は満期を迎えるまでフォローする必要がありませんし、償還してみて結果損失が発生した時に、投資家には『なぜ損失になったのか』の理由が見えづらいわけですね。
「オプション取引」などのデリバティブ取引は、プロ向けの金融商品であり、利益構造や損失の発生タイミングなど複雑な部分も多くなっています。
それを組み込んだ「仕組債」などは、到底投資を始めたばかりの方が運用する金融商品ではありません。
それでも、本文中にある通り、販売側となる銀行や証券会社が手数料を稼ぎやすい構造となっているために、案内だけは結構来ると思います。
今回、紛争事案でご紹介したように何千万円も「仕組債」につぎ込むような真似はまったくお勧めできませんが、『試しに保有してみたい』という場合は、ご自身のポートフォリオのほんの一部を割り当てて購入してみるようにしてください。