少し前の話なのですが、結構年配の知り合いで突然母親の遺産を手にした人がいました。
この知り合いをAさんとしておきましょうか。
Aさんは、これまで投資や資産運用というものにはまったく縁がなかったそうですが、この亡くなったお母さんというのはずっと日本の某オフラインの証券会社で資産運用を行っていたそうで、現物株式や不動産の評価益で億単位のお金を持っていました。
ちょっと複雑な家庭環境なのですが、このお母さんはAさんとは小さい頃に生き別れて別々に暮らしていました。
お母さんにとって子供はこのAさんしかおらず、Aさんのためにまとまったお金を残そうとずっと資産運用を続けていたそうです。
たまに連絡を取り合っていたAさんはお母さんが多少の資産を持っているらしいと分かっていたようですが、「金額がまさかこれほどになるとは・・」と驚いたようでした。
そして、相続した後の色々な整理が終わりまとまった資産を手にしました。
そんなある日、筆者は相談を持ち掛けられたのです。
ここからは会話にします
当サイトは会話シーンを一切使わないのですが、ここだけは会話シーンに切り替えます(笑)
証券会社の担当者が”引き続き運用をお願いします”って言うからお世話にもなったし少し株とか買ってみようかなと思うんだけど・・・僚ちゃん米国株で投資してたでしょ。どうなんだい、今だったら日本より米国株の方がいいのかな?
どっちかに偏るよりは分散した方がいいと思うけど、日本株の方が購入できる最低株数が100株だから購入時に多少お金がかかると思うよ。米国株は1株から購入できるから。まぁ、今のAさんなら大した金額ではないと思うけどね。
う~ん、そうだな。米国株だと為替の問題がありそうだしな。今、円安だから米国株買うのも高くなるんじゃないか?
そうだね。ただ米国株の投資で為替を気にしてもしょうがないよ。というか為替の動きは予測できないし、円高になるのを待っていたらいつまでたっても投資できなくなるから考えない方がいいよ。それに再投資するなら為替は関係ないしね。
ふ~ん。そういうもんかぁ。NISAも作ろうと思っているし、税金が掛からないなら好きな株数を買える米国株からやってみるかなぁ。
Aさんが使っている証券会社だと米国株の取り扱い数は相当少なくなるから、手数料なんかも考えるとネット証券に口座を作った方がいいと思うよ。お母さん時代からの付き合いを考えたらしょうがないけどね。
そうか、まぁ証券会社はとりあえず今のところでいいわぁ。そんなにたくさん買うわけじゃないし、有名な株が買えればそれでいいんだ。
さて、これは当時実際に会話した内容を少し端折って再現してみました。
この流れから分かるように、Aさんは特に資産運用を積極的に行おうとしているわけではなく、お母さんの運用中からお世話になった証券会社の担当者が息子であるAさんも気にかけてくれたお礼に、と少しまとまったお金を預けようと考えていたのでした。
実はこのやり取りには、Aさんのような投資初心者が間違いやすい勘違いをしている部分がいくつかあるのです。
それを1つずつ洗い出してみたいと思います。
日本株と米国株だけで比較しない
まず、日本とアメリカは共に「先進国」で、それ以外にもイギリスやカナダ、フランスやドイツなどの国があります。
逆に、これから経済発展が見込まれると予想される「新興国」の部類に入る国もあります。
中国やロシアなどの「BRICS」やメキシコ、アルゼンチン、インドネシア、トルコなどが挙げられるでしょう。
単純にアメリカの経済が好調だから、とか日本の日経平均が爆上がりしたから、などの理由で一国に偏った投資はなるべく控えた方がいいと思います。
先進国7割、新興国3割、その中でも新興国は不動産セクターを多めに、先進国はエネルギーセクターを多めにのように地域、業種などで分散し、後は個別銘柄、ファンドなどの資産分散も考えていきましょう。
この会話をした時にちょうど米国株が好調だった理由もあり、Aさんは米国株だけに投資資金すべてを投入しようと考えていたので、そこは少し熟考してもらいました。
米国株と為替の問題
米国株を購入しようと思うと、日本円を米ドルに替える必要があるので円安の時にはどうしても購入に多くの日本円が必要となるとAさんは危惧していました。
これは、まず投資スタイルを考えた時にあまり意味のない心配でもあります。
投資スタイルを以下のようなパターンで考えてみたいと思います。
値上がり益や配当収益をそのまま米国株に再投資する場合
もし、米ドル株を「長期運用する」と決めれば、持っている株を決済する必要はほとんどありません。
仮に、株を購入した後に値上がり益、もしくは配当収益で利益が出ていたので決済したとしても、その利益分は米ドルで手に入ります。
この利益分をさらに米国株に再投資して長期運用するのであれば、株の購入は同じ「米ドル決済」となるので日本円との為替差損(益)を気にする必要はありません。
最終的に日本円に戻すときに為替差損(益)が発生するとは思いますが、長期運用で手にした利益と差し引いて考えても為替差損を気にする必要がないくらいに利益が発生している可能性が高いでしょう。
利益が出たらすぐ決済して日本で消費したい場合
この場合は、米国株で運用してちょっと利益が出たらすぐ決済して利益を確定させたい、という人になると思います。
そして、「あぶく銭だし日本円に戻してさっさと美味しい物でも食べちゃお!」という浪費癖のある人がこのような行動に走るパターンが多いです。(笑)
これはやはりAさんが気にしているように、円安で米国株を購入し決済時に円高に進んでいれば為替差損が発生するパターンとなります。
つまり、短期運用ですぐに日本円に替えるような投資パターンであれば為替の動向は気にする必要があるでしょう。
「米国株の購入・売却を短期間で行い、利益を日本円にすぐ替えるような取引なら為替の動向はチェックしてね」とAさんには伝えましたが、本人的にはそんなにしょっちゅう株の売買をしたいわけではないので、その時は「為替は気にしないようにして考えてみる」と言っていました。
米国株の利益で発生する税金はNISA対象外
さて、AさんのようにNISA口座があれば税金がなんでも非課税になると思っているかたが多いかもしれません。
しかし、保有している米国株などの外国証券で利益が発生した場合は、その国の税制に従って利益分に税金が発生します。
外国税額控除が使えるのは、NISA口座以外の一般の口座なので注意したいところですね。
Aさんに、「米国株をNISA口座で運用しても現地の税金は発生するからね」と伝えたら「騙されるところだった!」と筆者の顔を見ながら言っていました。
いやいや、・・・わたくしが決めているわけではないんですけど・・。
普段投資をやらないかたにしてみたら、やっぱりこの辺りは分かりづらいですよね。
日本の証券会社はすべての米国株を買えるわけではない
これは、オフラインの証券会社だけでなく有名なネット証券にも当てはまります。
ただ、ネット証券の方がオフラインの証券会社より米国株の取り扱い数は多いのではないか、と思います。
Aさんは有名どころの株を購入するから大丈夫、と言っていましたが、配当株ならまだしもこれから100倍くらいの値上がりを見込む株に関しては有名どころの株では難しいかもしれません。
15年から20年くらい前のAppleやNetFlix、Amazon株は急成長して大型株(Aさんのように言うなら有名な株)となりました。
しかし、これらの株に今から投資してもそれほどの利益は見込めないでしょう。
これから成長が見込まれるグロース株や割安株は、日本の証券会社ですべてを取り扱っているわけではないので、やはりその中でも取扱数の多いネット証券会社の口座を改めて作成してほしかったですけど、さすがにそこまでは考えていないようでしたね。
もし、たくさんの米国株の銘柄を取引したいなら外国の証券会社に口座を作る手もあるよ。でも、そうなるとNISA口座は作れないんだけどね。
そう話したら、Aさんの思考が追いつかなくなり、こう弱音を漏らしました。
に、日本の株でもいいか・・。イオンの株でも買って桐谷さんみたいに優待でももらうか(笑)
これから投資を始める人に、ある程度説明して「やってみよう!」と思ってもらうのは中々難しいものですね。
Aさんが現在どのような運用をしているのか、そもそも投資を行っているのかどうかは敢えて聞いていないので分かりません。