ユナイテッドヘルスケア・グループ(UNH)のCEOである「ブライアン・トンプソン」が銃撃された件を少しお話ししましょうか。
今月12月4日の早朝、社内会議のためにニューヨーク市のマンハッタンにある「ニューヨーク・ヒルトン・ミッドタウン」を会社に向かって歩いていたところを銃で撃たれたのです。
米国では連日大々的に報道されていたようです。
日本でも少し報道されましたが、UNHの株を持っている投資家や保険会社に勤める人以外はそれほど関心のないニュースだったのではないでしょうか。
このCEOが銃撃された事件を知った多くのアメリカ人は、犯人の「ルイジ・マンジョーネ」に対して喝采を浴びせました。
”よくやった”と。
なぜ、これほどまで犯人は称賛を浴びたのか?
それは、保険会社最大手である「ユナイテッドヘルスケア」の医療保険金請求の拒否率が最も高かったからです。
アメリカの保険会社は請求の審査などにAIを導入しています。
10月には米国上院常設小委員会が、ユナイテッドヘルスによるポストアキュートケア(退院後の患者を自宅に戻すために必要な医療)の却下件数が「わずか2年間で2倍に増加した」と公表しました。
米国の医療問題
米国では、医療保険が高額であるため加入していない人も多く、医療費が原因で自己破産に追い込まれるケースも少なくありません。
経済的な余裕がなければ医療を受けられない、医療保険が高額過ぎて加入できない、健康診断を受けられないという”ないないづくし”の現実に直面している米国人が多く存在します。
また、保険に加入していてもその仕組みは非常に複雑です。
診察や治療後、数か月から半年以上経ってから請求書が届くので、保険がどの程度医療費を負担するのかが事前には分かりづらいケースも少なくありません。
また、保険会社の処理ミスや不適用による不当請求も頻発しており、患者自身が保険会社や病院に直接交渉する必要があったりします。
保険会社の株価が暴落
この事件以降、ヘルスケアーセクターの保険会社は、軒並み株価が暴落しましたね。
当事者のユナイテッドヘルスは、12月4日の事件から1週間ちょっとで株価が15.5%ほど下落しました。
実際の株価で言えば、1株611ドルだったのが516ドルまで下落し、企業価値が1000億ドルも下がったのです。
これを受けて、他の大手保険会社も連動するかのように株価が下落しました。
株価急落後、各保険会社は自社のホームページから経営陣の顔写真や名前を削除して、今後同じような襲撃を受けないように対策を始めています。
しかし現在、ニューヨークにはCEOたちの顔を描いた「氏名手配」のポスターが貼られているのです。
米国の医療保険業界にとっては、変革の時を迎えているのかもしれません。
新政権発足で変わるのか
捜査当局は、犯人の「マンジョーネ」が企業の貪欲さと利益優先主義に怒りを募らせ、ユナイテッドヘルスケアを非難するマニフェストを作成していたと発表しました。
SNS上では、「#FreeHim」や「#FreeLuigi」といったハッシュタグが拡散し称賛されている一方で、「マンジョーネ」を発見して通報したマクドナルドの店舗には低評価レビューや嫌がらせが相次ぎました。
確かに米国民の怒りはもっともです。
しかし、企業が社会に対してどれだけの価値を創出しているかも考えなければならないし、ましてや罪のない人が後ろから突然撃たれたという事実にはきちんと目を向けるべきでしょう。
トランプ新政権誕生となる1月に、この医療保険に関しても何らかの指針が示されるとは思いますが、米国での医療保険に関する混乱はまだまだ続きそうです。
ヘルスケアーセクターの内、保険会社に投資をしているかたは、今後の動向に注視してください。