不動産事業に投資をするために、一番手軽に投資できるのは「リート投資信託(ファンド)」となります。
株式や債券を投資対象としたファンドと同様、指数に連動する「インデックス型」や指数を上回る「アクティブ型」など数多くの「リートファンド」が販売されています。
今回は、その中でも「インデックス型リートファンド」を選ぶ際に、注意したいファンドの中身について見ていきたいと思います。
念のため「J-REIT」をおさらい
「J-REIT」(以降、リート)とは、日本の不動産市場に投資する「不動産投資法人」が、株式で言うところの「株券」にあたる「投資証券」を発行し、証券会社で株式と同じように取引できるようにしたものです。
分類としては「不動産投資信託」と言う「投資信託」になるのですが、不動産投資法人に証券コードが割り当てられているので、株式と同様リアルタイムでの売買も可能となっています。
1つ1つがリートの銘柄になっていて、「現物で買う」、「信用で売る」などの取引ができるようになっていますね。
東京証券取引所に上場している不動産投資法人は61社あるのですが、国内の主要な証券会社はこのすべてを取引できるようになっています。
「リート」と「リートファンド」の違い
「リート」が、いわゆる株式の不動産バージョンであると分かりましたが、複数のリートにまとめて投資した投資信託もあり、これが「リートファンド」となります。
上の画面は、「SBI証券」で日本の「リート」(インデックス型)に絞ってファンドを検索した結果の一部です。
各運用会社から様々なファンドが販売されており、全部で19本の「インデックス型のリートファンド」が見つかりました。
株式と同じ「個別銘柄となる投資証券」での売買だけではなく、複数の投資証券が1本にまとまった「リートファンド」を購入すれば、それだけで不動産の分散投資ができるようになっているというわけですね。
運用会社は別、でも中身は同じ2つのファンド
「SBI証券」で販売されている「インデックス型リートファンド」だけでも20種類ほどを確認できました。
同じように、ファンドを販売している証券会社などではどこもたくさんの「インデックス型リートファンド」を扱っています。
これらのファンドを購入する時に、どれを選んだらよいか迷うな~・・
と思うかもしれませんが、実は運用会社こそ違えど、これらのファンドの中身はどれも似ているものが多いのです。
例として、「三井住友DC日本リートインデックスファンド」(以降、三井住友リート)と「たわらノーロード国内リート」(以降、たわらリート)の2つを比較してみましょう。
※データは2022年9月
三井住友リート | たわらリート | |
---|---|---|
管理費用 (信託報酬) | 0.275% | 0.275% |
信託財産留保額 | なし | なし |
マザーファンド | J-REIT・インデックス・マザーファンド | J-REIT・インデックス・マザーファンド |
シャープレシオ(5年) | 0.43 | 0.42 |
基準価額 | 13,609円 | 14,763円 |
純資産総額 | 58億6千万円 | 125億3.8千万円 |
分配金(設定来) | 0円 | 0円 |
設定日 | 2016年9月23日 | 2015年12月18日 |
「三井住友リート」の運用会社は「三井住友DSアセットマネジメント」、「たわらリート」の運用会社は「アセットマネジメントOne」とこの2つのファンドは別々の運用会社によって運用されています。
それにも関わらず、たわらリートの設定日が9か月早いくらいで後は、「0.275%」という管理費用や5年間で見た「シャープレシオ」という運用成績はほとんど同じですね。
どちらも分配金は一切出していないので、分配金支払いによって基準価額が下落するという影響も共にありません。
唯一、「たわらリート」の方が純資産総額が大きいですが、これは設定日が少し早かったのと、投資家たちの人気から資金が集まったのが要因と思われます。
なお、投資家の購入数(口数)が増えると、純資産総額も増えますが、基準価額には影響しません。
参考基準価額×口数=純資産総額
しかし、同じ「インデックスリート型ファンド」とは言え、ここまで運用成績が同じになるのはなぜか・・・。
それは、「マザーファンド」を見ると分かります。
2本のファンドとも、同じ「J-REIT・インデックス・マザーファンド」というマザーファンドへ投資するファミリーファンド方式となっています。
マザーファンドが同じだと投資比率が多少変わるぐらいで投資先はほぼ同じとなります。
これらのファンドの投資先上位10銘柄は以下のようになります。
三井住友リート
たわらリート
元々「Jリート」は61本しかないので、投資先というのは株式よりも限定的になりますが、これだけ同じ情報を見せられると、単に名前が違うだけの同じファンドにしか見えませんね。
つまり、この2本のファンドは同時に保有していてもあまり意味がないわけです。
中身が同じなのに基準価額に差があるのはなぜ?
さて、それではもう一つファンドの比較表を見てみましょう。
1つは、先ほど見てきた「三井住友リート」、もう1つは「野村アセットマネジメント」が運用する「野村インデックスファンドJリート」(以降、野村Jリート)を比較してみます。
※データは2022年9月
三井住友リート | 野村Jリート | |
---|---|---|
管理費用 (信託報酬) | 0.275% | 0.44% |
信託財産留保額 | なし | 0.3% |
マザーファンド | J-REIT・インデックス・マザーファンド | J-REIT・インデックス・マザーファンド |
シャープレシオ(5年) | 0.43 | 0.43 |
基準価額 | 13,609円 | 31,513円 |
純資産総額 | 58億6千万円 | 87億6千万円 |
分配金(設定来) | 0円 | 0円 |
設定日 | 2016年9月23日 | 2010年11月26日 |
この2つもよく似ていますが、以下の3点に着目してみたいと思います。
- シャープレシオ(5年)の差
- 基準価額の差
- 信託報酬と信託財産留保額の差
「三井住友リート」と「たわらリート」の比較の時には、基準価額にそれほどの差はありませんでした。
また、信託報酬と信託財産留保額については、まったく同じでした。
「三井住友リート」と「野村Jリート」を比較してみると、上記2つに結構な差がありますよね。
しかし、運用成績を判断できる「シャープレシオ(5年)」には全く差がありません。
この辺りを注意深く探ってみると、似たような「リートファンド」を購入する際の注意点を見つけられるのです。
シャープレシオの差
直近5年間の「シャープレシオ」は、どちらのファンドも「0.43」となっています。
当然と言えば当然なのですが、ファンドの中身が同じなので、運用成績も同じとなりますね。
では、運用成績が同じ2つのファンドにおいて、なぜ基準価額に差が出てくるのでしょうか?
基準価額の差
運用会社はやはり別々ですが、投資先となるマザーファンドは今回も「J-REIT・インデックス・マザーファンド」になります。
しかし、先ほどの「たわらリート」と比較した時と違って、「基準価額」の値が大きく異なっています。
ファンドの中身はほぼ同じ、先ほど見たように運用成績も同じなのに、基準価額におおよそ2.3倍くらいの差があります。
これは、なぜかと言うと、運用期間の長さの違いによります。
「野村Jリート」の方は、2010年の設定日から最初の6年くらいで運用成績を上げてきています。
6年近くの期間が開いてから、2016年に「三井住友リート」が運用を開始しています。
その運用期間の差が、現在の基準価額として反映されてきているわけです。
費用の差
さらに、「三井住友リート」と比較して、「野村Jリート」は、「信託報酬」が1.6倍ほど高めとなっています。
加えて、ファンドを解約(売却)した時に発生する「信託財産留保額」も0.3%発生します。
これは、運用会社と管理会社の両方が違うため、発生する費用に違いが出るのはそういうものだと諦めるしかありません。
しかし、同じようなファンドの中身なのに、毎日発生する信託報酬にこれだけの差があると「三井住友リート」の方を選びたくなってしまいますね。
3点を踏まえてファンドを総括すると・・
さて、以上の3点を踏まえて「三井住友リート」と「野村Jリート」の同じような2本のファンドを目の前にした時に、もし購入するとしたらどちらを選ぶかと言うと・・それはやはり「三井住友リート」になるでしょう。
- 運用成績は同じだった
- 基準価額が安いのは三井住友リートだった
- 手数料が安いのも三井住友リートだった
というわけですから、おのずとどちらを購入した方が良いかは明白ですね。
シャープレシオの注意点
シャープレシオを「設定来」(運用開始日からの期間)で比較してしまうと、運用期間に差がある2つのファンドでは正しく比較できません。
基準価額は安い方がいい
上の表で言えば、
「三井住友リート」は13,609円あれば10,000口買えるのに対して、
「野村Jリート」は31,513円ないと10,000口買えません。
ファンドの中身が同じなら10,000口買うのに支払う金額は安い方がいいですよね。
まとめ中身が同じならどれを買う?
全部で3本の「インデックス型リートファンド」を比較してみたわけですが、探してみると他にもまだまだ中身が同じようなファンドはたくさんあります。
上位10位までの投資先が、先ほど見た投資先と同じで「大和アセットマネジメント」が運用している「i-Free Jリートインデックス」(以降、i-Free)というファンドがあるのですが、このファンドは「マザーファンド」が「ダイワJ-REITマザーファンド」というだけで運用成績は「三井住友リート」とほぼ一緒です。
※データは2022年9月
三井住友リート | i-Free | |
---|---|---|
管理費用 (信託報酬) | 0.275% | 0.319% |
信託財産留保額 | なし | なし |
マザーファンド | J-REIT・インデックス・マザーファンド | ダイワJ-REITマザーファンド |
シャープレシオ(5年) | 0.43 | 0.42 |
基準価額 | 13,609円 | 13,669円 |
純資産総額 | 58億6千万円 | 21億円 |
分配金(設定来) | 0円 | 0円 |
設定日 | 2016年9月23日 | 2016年9月8日 |
設定日もほぼ同じ時期で現在の基準価額もほぼ同じ、信託報酬に若干の差があるだけですね。
つまり、この2本であれば、やはり「三井住友リート」の方に若干の分があるかもしれません。
さて、どうでしょうか?今回紹介した全部で4本のファンドをすべてポートフォリオに含めている方はいらっしゃいますか?
(もし、重複して持っていたら精算してどれか1つにまとめた方が良いと思います。)
「この運用会社のファンだ!」などの特別なこだわりがなければ、「インデックス型リートファンド」はいつも以上に中身を確認しておきましょう。
今回紹介した以外のファンドでも同じような運用をしているファンドがあるかもしれません。
同じような投資先で同じような運用成績であれば、「手数料」や「購入時の基準価額」での比較・購入をお勧めします。