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さて、今回は5巻です。まさかのタイムスリップ発生でしたね。

インベスターZ(5)【電子書籍】[ 三田紀房 ]

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感想(1件)

5巻あらすじ

カリスマ転職アドバイザー「海老沢康生」のセミナーで「就活の必勝法」を学んだ町田浩子は、株を始める決意をする。

銘柄を見てもよく分からなかった浩子は、自分が着ているスーツを買った「スーツカンパニー」が「青山商事」のサービスだったと知る。

企業情報をまるで何も分かっていなかった自分の就活を改め、周りとは合わせない独自のやり方で就活をやっていくと気持ちを新たにした。

道塾の財前は、美術品の売却金を手に入れ、医療と化学薬品を中心に銘柄を買い進めていた。

「iPS細胞」の医療分野と一見関連がなさそうな印刷や化学メーカーなどの業種も広く連携しており、これらを俯瞰的に見てリターンを獲得していくと宣言する。

そんな時、高校2年の渡辺が保有していた情報サービス会社の「ロクルート」が子会社の「メディアカントリー」を売却するというニュースが出た。

「ロクルート」の業績は堅調である一方、黒字の子会社の売却報道の原因として今期の収益悪化を予測した渡辺は、保有株式全部を売る決意をする。

しかし、パソコンの画面を見た財前は、『明日、最安値をつけたところで全部買う』と、渡辺と真逆の宣言をした。

財前は、社長のツイッターのある”つぶやき”から「やらないことを決める」という黒字の子会社売却の真意を見抜いたのだった・・。

東京の女子3人の投資メンバーは、メンバーの1人「久保田さくら」の家を訪問し、投資を始めたばかりのさくらの母と初対面を果たす。

女性が活躍できる環境の企業を集めた「なでしこ銘柄」を見つけた女性陣は、これらの選定された数十社が本当に女性が活躍できている環境にあるのか疑問を持つ。

その話を聞いたさくらの母は、『日本に女性が活躍している会社は1社もない』と断言する。

40歳を過ぎてから女手一つでさくらを育てた母は、自分の体験から、女性の自立が保証されておらず国や企業に何も期待できないと語った。

先進国でも女性の経営参加率が最下位の日本では、男性だけを経営陣に据えている企業も多いが、女性の投資家として『これらの株を買わない』と抵抗する姿勢を見せようとみんなで誓い合うのだった。

財前は、自分の先祖のルーツを調べるためにも、道塾学園に眠る投資記録を調べ始めた。

・・・と、そこへ突然本の中へと吸い込まれ、どこかの校内へ降り立った。

そこに登場したのは、財前の曽祖父、「財前龍五郎」だった。

時は、日露戦争終結後の1905年、明治時代の道塾の投資会議が財前の目の前に広がっていた。

日露戦争の勝利で、浮足立つ投資部メンバーである藤田家番頭たちは、南満州鉄道株式会社を始め株式の”買い”に向かっていた。

そんなメンバーを尻目に、龍五郎は、日露戦争勝利による日本の損得勘定をはじき出し、反対に”売り”だと断言する。

17世紀にオランダで起こった「チューリップバブル」を引き合いに、現在の日本の高揚は泡のようにはじけ飛ぶ「バブル経済」だと言うのだ。

会議としては「買い」で終えてメンバーに妥協したかに見えた龍五郎は、実は独断で「売り」の指示を出していたのだ。

そして、メンバーである番頭たちが足を引っ張る存在だと考える龍五郎は、道塾の生徒だけの投資倶楽部を作りたい、と希望した。

龍五郎が既に決めていたメンバー候補の内、原は「投資は卑しく不浄である」と入部に難色を示す。

龍五郎は、”金は汚い”という思想を抱える原に対し、『その発端は「〇〇〇〇〇」にあり、それを見た徳川家康が国民は貧しい方が統治しやすいと考えたのだ』と言う。

それでも食い下がる原に、”貧乏が諸悪の根源である”と説いた龍五郎の「金儲けが国の未来に繫栄をもたらす」という信念を受け入れた原は入部を決めた。

学校の部室で夢から覚め現実に戻った財前は、帰宅後に日露戦争後の株価の動きをパソコンでチェックしてみた。

龍五郎の予想通り、バブルがはじけたような株価大暴落が画面に表示されていたのだった。

朝日印刷とロイヤルホールディングス

「iPS細胞」から医療分野の銘柄を探していた財前が、関連する事業の銘柄にも注目していましたがその中でも「朝日印刷」は、現在も富山県に本社を置く実在の会社です。

漫画では、知名度はないけれども超優良な中小企業の代表として紹介されていましたね。

東証二部から現在の区分の「東証スタンダード」に分類されましたが、医薬品や化粧品包材の設計からデザインまで他社を寄せ付けない高度な印刷技術や専門的な知識を豊富に持った会社です。

現在の株価は、この5巻が販売された頃のピークからは半値ほど下げましたが、配当利回りは今年も4%超を維持しそうですし、コロナ以前からの先行投資である工場設立や海外拠点などが今後新たなビジネス展開へと実を結んでいくのではないかと期待されています。

また、女子投資部の町田倫子の姉・浩子が初めて購入した株は、「ロイヤルホールディングス」になりました。

関東圏ではおなじみの「ロイヤルホスト」(通称、ロイホ)を運営している企業になります。

北海道では、残念ながら札幌に数店舗しかないので、北海道民にはあまり馴染みのないファミレスかもしれませんね。

最初に購入する株は、こういった自分がよく行くお店や、よく利用している商品などを運営・開発している企業に投資してみるのはいいと思います。

浩子のように企業を良く知るために、さらに自分なりに調べるようにもなり、その企業が『他にもこんな店をやっていたのか!』という新たな発見も多々あったりします。

漫画では、浩子が天丼の「てんや」(これも、北海道にほとんどない(泣)・・・)や「リッチモンドホテル」も「ロイヤルホールディングス」が運営していると気が付きましたが、実は都内にしか存在しない「Sizzler(シズラー)」というファミレスを展開しているのもこの「ロイヤルホールディングス」だったりします。

全然関係ない話ですが、昔関東にいた頃、「サイゼリヤ」(格安のイタリアンレストラン)を見慣れていない人を連れて都内を案内した時に、この「Sizzler」の看板をみて「サイゼリヤだっ!」と言った人がいました(笑)

余談は置いておいて・・・、この2人の行動を見ていると、「企業に興味を持つ、調べる」というのは投資を行う上でやはり大事な要素となりますね。

決断とは・・・

「ロクルート」(架空の会社)が、黒字の子会社を売却するというニュースが流れた時に、ロクルートを保有していて売却を急ぎたい部員の渡辺とは逆に、財前は経営者のツイッターを見て「いったん売却後に再購入する」という提言をします。

売却理由を「本業の窮地」と読んだ渡辺や他の部員を横目に、財前はツイッターで何を見て、なぜ”買い”だと思ったのでしょうか?

それは、「多角化した事業をスリムにして本業に集中する」という経営者の威信表明を目にしていたからでした。

一流の経営者になるほど、「何に集中するか」「何を捨てるか」を説く方が多いですよね。

漫画では、「スティーブ・ジョブズ」の言葉が出てきましたが、これは経営に限った話ではなく実生活でも無駄な作業や時間というのは結構あるものです。

「その時にどこにどれくらい集中するか」を整理するのは非常に大事で、それは投資の面においても同じですね。

「黒字の子会社を売却」という表面的なニュースだけではなく、その真意を経営者の言葉から探った財前は、売却後の業績アップまでを見込んで”買い”を決めたわけですね。

女性が活躍できる社会とは

漫画では、アメリカの上位500社で女性がCEOを務めている割合が4%と紹介されていました。

漫画で紹介されてから10年近くたって、ようやく現在は500社中44社、つまり女性CEOの割合は8%ほどまで増えましたが、まだまだ企業のトップは男性色が強いですね。

さくらの母が「女性が活躍している会社は日本に1社もない」と憤っていましたが、日本でも、まだまだ男性上位の社会であるのは間違いないでしょう。

女性が活躍している企業を選定する「なでしこ銘柄」を経済産業省と東京証券取引所が共同で毎年実施していますが、令和3年の「なでしこ銘柄」「準なでしこ銘柄」に選ばれた企業一覧は以下のようになりました。

なでしこ銘柄(経済産業省)

令和3年度選定企業(経済産業省)

ここに出てくる企業はすべて上場企業であり、女性の働きやすさ・要職比率などを様々な角度から数値化しています。

漫画でのお話から10年くらいたった今でも、どの企業も女性の社内取締役などの要職率は結構低いですよね。

どの企業も女性の中途採用を積極的に行っているのでしょうけれども、さくらの母が言っていたような「40歳を過ぎて小さい子供を抱えている」場合など、企業から見た「ハンディを背負っている中途採用」は中々受け入れてもらえない傾向にあるのも事実です。

「女性が活躍できる社会」を創造するために、投資家の立場として何ができるのかを考え実行していくのも大切となるでしょう。

河童の屁

財前は、明治39年の道塾学園へとタイムスリップし、日露戦争終結から1年後の投資部会議を目の当たりにしました。

明治38年に終わった日露戦争はイギリスの後ろ盾を得ながら勝利を収めたものの、明治27年の日清戦争で大勝利を収め多額の賠償金を手に入れた時とは一転、賠償金を手に入れられず借金に苦しむ時期を迎えるわけですが、実際は日露戦争の戦費を賄った公債や外債による外国資金や鉄道の国有化による資金が日本経済を還流し、現代で言うような「バブル経済」を迎えていました。

日清戦争からの連戦連勝で国の強さを見せつけた日本は社会経済も高揚感に湧き、投資活動が盛んになりました。

この時期の株式ブームをけん引した企業が漫画にも出てくる「南満州鉄道株式会社」で、投資部会議で株式購入について話し合いが行われていましたね。

満州利権を巡る日本の外交は、その後の太平洋戦争開戦へと通じていくわけですが、この頃は大戦の引き金になるとは思っておらず、満州の鉄道経営を始め国内の鉄道株は好景気に沸きイケイケドンドンだったわけです。

漫画では、それを揶揄するかのように「河童の屁」だと言い切ったのが、財前の先祖である「財前龍五郎」でした。

水面に浮かぶ泡を「河童の屁」と思い込み喜んでいるが、実体である河童(経済)が見えいていない。

いわゆる「バブル経済」を表しているわけですが、いつの時代にも過度な価格高騰はあるものですね。

最近であれば、仮想通貨などに見られる傾向ですが、「屁」がたくさん見えた時は、河童がどこにいてどんな姿をしているのかを冷静に分析する必要がありそうです。

まとめ思考の転換が随所に

さて、今回の5巻では多くの登場人物たちが行動や思考の転換点を迎えたような気がします。

  • 町田浩子は、就活セミナーから新たな企業リサーチを行い、初めての株式投資を行った。
  • 財前を始め投資部員たちは、企業の子会社売却案件が完全にも業績不振からの理由だけではないと知った。
  • 女子投資部は、女性が活躍している企業を探し出し応援するため、自分たちが購入する株に適切なフィルターをかけると誓った。
  • 財前は、秘密組織である道塾の投資部を道塾全体で行いたいと思った。

財前の道塾全体での投資提案は、明治時代の道塾学園の投資部発足を見た影響が大きいでしょう。

秘密裡に少人数で運営されてきた投資部について、財前は、優秀な人材に投資に加わってもらうためにも”秘密にせず大勢で行えばいい”、と神代に提言します。

しかし、実際は龍五郎は、”秀才が『数名で』投資を行った方がいい”と言っていました。

同じく現代では、神代も”投資は大勢の人間が集まったら失敗する”と言っています。

その真意とは何なのでしょうか・・?

次の6巻で答えを確認してみたいと思います。

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