「カレチ」
それは、長距離列車に乗務する客扱専務車掌を言います。
最初に出てきたのは、大阪駅発「特急白鳥」青森行きでした。
今では考えられないですよね。大阪管区の車掌が青森まで行くのは・・。
JRになってからは、東日本や西日本、東海など管轄が明確に分かれているので、寝台列車に乗って現地で一泊して戻りの車両に乗って帰ってくるというのは遠い昔の話となってしまいました。
この「カレチ」というマンガは、旧国鉄時代の車掌が列車内での乗客や列車業務に携わる他の仲間たちとの交流を1話完結で描く物語です。
時期は昭和40年代前半から後半あたりとなり、最後の5話は国鉄がJRへと変わる「分割民営化」の時期を描いています。
国鉄時代を知る世代は懐かしく感じる部分も多いでしょう。
今回は、全5巻の中からいくつかピックアップしてご紹介したいと思います。
乗り換え客の水増し
大雪の影響などで列車の到着時刻が遅れる場合、乗り換えのある駅であれば「乗り換え待ち」のために、先に到着している列車が発車時刻をずらしてでも待っていてくれる場合がある。
ただし、乗り換え客が少ない場合、見切り発車してしまう可能性もあるので列車内から駅へと事前に連絡(業務連絡所)を入れる。
そこで乗り換え客を多めに伝えて、列車を待たせるようにする「水増し」が横行していた時代があった。
主人公の荻野は、ある大雪の日の車内で、女性客から「親の危篤のため何とか乗り継がせて」と泣かれてしまう。
この1つ前の駅でも同乗していたチーフの水増しにより、荻野が到着駅の駅長から小言を言われたばかりだったため、荻野は次の乗換駅での水増しをためらう。
それでも、荻野は「21人」と水増しした乗り換え客の人数をチーフに報告した。
駅に到着するも、降りる客はその女性客のみ。
到着駅の駅長から「残りの乗り換え客はどこにいる?」と詰問された荻野の元へ、先ほどの女性客の近くに座っていた団体客が「わたしらがこの駅で乗り換える」と降りてくれた。
感謝する荻野の手に「もしクビになったら来い」と言って渡してくれた名刺には、関西の私鉄の運輸部長の名前が刻まれていた。
ニレチ
荷物の輸送に携わる荷扱い専務車掌を「ニレチ」と言う。
全国紙の新聞を特急列車の荷物車両に乗せて運ぶための積み込み作業などを行っていた。
本来カレチになりたい村上は、荷物に書かれた駅名の「新井(あらい)」と「新井(にい)」を読み間違えて同じ漢字の違う駅方面へ向かう貨物に積み込んでしまった。
一緒に乗務中の田村ニレチが「お客さんに申し訳ない」とつぶやく。
間違った荷物が届いた駅に乗務で滞在していた荻野カレチと連携して事なきを得た村上は、カレチではなく「ニレチ」になりたい、と荻野に語った。
しかし、年数を経て国鉄内の仕事の在り方も変わってくる。
ニレチ(荷扱専務車掌)は、コンテナ貨物による一括処理が進み将来消えてなくなると言われていた。
車掌長や助役、駅長などへの道はカレチからでもなれる。
では、ニレチになるために車掌登用試験を受けようとしていた村上はどうすればいいのか。
荻野が言うには現在のニレチの仕事とは姿を変えた新たな「荷物を扱う業務」となるかもしれない。
ニレチを好きな村上は悩む。今では引退してしまった元上司の田村に相談して言われたのは、好きな仕事をやる方法であった。それは・・・〇〇〇〇
現在はコンテナ貨物がメインになっていますね。
女性車掌
主人公の荻野が、まだ車掌になるための教習を受けていた昭和30年代後半。
トロリーバスの車掌をしていた一人の女性と出会う。
鉄道が好きだった彼女は、当時の国鉄では叶わなかった女性車掌になるために、トロリーバスの車掌となったのだった。
トロリーバスは架線から取り入れた電気で走るため”鉄道”として分類されていました。
研修を終えて車掌としての初乗務を迎えた荻野は、この女性の夢を叶えるために一緒に乗務員室に乗せようとしたが、女性に「車掌ならこんなことをしてはダメ」と叱咤される。
自分の過ちに気付いた荻野は、ホーム上に残った彼女と一緒に指さし確認をして1人出発した。
10年後にこの女性と再開した荻野は、彼女が大阪府議会の女性参画室で女性の社会進出を促進する活動を行っていると知った。
そしてここからさらに20年、1994年に国鉄消滅後のJRでようやく、初の女性車掌が誕生した。
日本の鉄道界では女性の社会進出がこんなに先だったのですね。
保線班
念願のカレチに昇格した主人公・荻野の後輩の栗原は、荻野と同乗していた特急列車で誤扱いし、列車を緊急停車してしまう。
自分の停車駅の記憶違いで列車を止めてしまったにもかかわらず、緊急停車の理由を「床下からの異音」と答えてしまう。
一旦は異常なしと連絡が来たが、生来の真面目さで荻野は「異音の原因を徹底的に調べる」と栗原に告げる。
調査には、「保線班」が担当した。
大事になってしまい焦る栗原は、列車を降り保線班のメンバーが必死に調査している姿を見て、「嘘」と言えなくなってしまう。
その夜、荻野に真実を打ち明けた栗原は、荻野と共に保線班が作業している現場へと向かった。
「保線班の仕事を愚弄した」
荻野は静かに栗原を諭した。
自身の保身のためだけについた嘘を「今日から君も〇〇〇〇〇になると約束してくれ」という温かい言葉で許してくれた保線班長の言葉を聞いて、栗原は大粒の涙を流し続けた。
現代でもそしてどの業界でもよくある話ですね。筆者も肝に銘じなければなりません。
列車内の治安維持
カレチに司法巡査の権限が与えられていたのは国鉄時代の話であり、現在は警察庁管轄の鉄道警察隊が列車内の治安維持を担う。
司法巡査とは制服警官に準じた捜査を行える権限
主人公・荻野の後輩栗原は、乗務中の車内に乗っていると思われる指名手配犯を自分の手で捕まえようとするが、荻野は乗客の安全が最優先だと言う。
もちろん、カレチにも逮捕の権限はあるが、荻野は次の停車駅で乗ってくる当時の「鉄道公安官」に任せたいと考えていた。
しかし、栗原と挟み撃ちにした食堂車で犯人と対峙してしまう。
隙を見て逃げ出した手配犯は、列車の扉を手動で開けて車外に出てしまった。
そのまま飛び降りて逃げようとしている。
助けたくない栗原を叱咤し、荻野は乗客(手配犯も乗客)のために「列車を停めるから飛び降りるな」、そして今にも落ちそうな手配犯に向かってこう叫んだ。
「がんばれ、〇〇〇〇!」
緊急時にこそ冷静にどのような声掛けができるかは、その人の能力次第ですね。
鉄拳指導
昭和40年代後半、荻野の中学の後輩である益岡は、管理局に入るも、現場研修として田舎の無人駅に3か月間だけ助役代行を任された。
しかし、そこの駅長からは仕事に対して何の指示ももらえず、失敗するたびに鉄拳制裁をくらっていた。
指示もされない、怒鳴られるで次の週には泣く泣く荻野に相談する羽目になっていた。
「駅の役に立つ仕事を見つける。怒鳴られたらまた見つけるの繰り返し。」
とアドバイスを送った荻野だったが、益岡は「自分で考えろ」と言われただけのような気がして釈然としなかった。
しかし、「駅の役に立つ」行動をしても、やはり駅長から鉄拳をくらうだけだった。
ある時、乗務した列車で雪退避のため一時的に益岡のいる駅に停まった荻野は、駅内のテコで動かす信号が動かず嫌な予感を覚えた。
テコで動かなくなった原因は、線路上の手信号が雪で凍ったせいであり、それを溶かさなければテコは動かない。
熱湯の夜間をもって駅長が出ていった、と益岡は言う。
今だと完全アウトかもしれませんが、仕事を体で覚えた時代はみんな痛い思いをしたかもしれませんね。
荻野と益岡は線路上をダッシュで手信号へと向かった。
駅長は雪の中に倒れていた。
2人は慌てて駅に向かってくる列車に停まるよう旗を振ったが、実際列車が止まったのは、駅長が線路に万が一のために巻いておいた「信号雷管」のおかげだった。
心臓発作で死んでしまった駅長の葬儀の最中、益岡は荻野に今では駅長が何をやろうとしていたかが分かる、と言った。
万が一が起きる前に、駅長はすべてを準備してあったのだと。
管理局で偉くなりたかった益岡はその後、現場への異動願いを出した。
配点組
配点組---国鉄直営炭鉱(国鉄が福岡県で直営していた炭鉱)で働いていた人が配点のあっせんを受け乗務員に。
年配が鉄道乗務の1年生となり、若い人の後輩になる。
目上の人への礼儀と仕事の上下関係で大切なコツとは・・荻野カレチが教えてくれたのは、仕事の指示や注意をするときに〇〇〇〇〇〇ことだった。
鉄道を通して教えられる「仕事」とは
鉄道の世界だけでなく、どこの世界でも通じる「仕事」への考え方を学ばせてくれる、そして初心に帰らせてもらえる、「カレチ」はそんなマンガになっています。
個人的には国鉄の合理化によって人員削減などが主流になったころに、堀之内が出世を捨て恋路の果てに国鉄を退職し、実は喫茶店のマスターになっていた話が結構好きです。
さて、突然ですが○×クイズです。
その昔、東京からパリへの切符というのが販売されていた。〇か×か!
もし販売されていたのであれば、どのようなルートでどれくらいの時間がかかったのか・・・。
調べるか、あるいは「カレチ」を隅々まで読んで探してみてください。
「カレチ」1巻はこちらから
価格:759円 |
カレチ
連載 | モーニング |
作者 | 池田 邦彦 |
巻数 | 5巻 |
現況 | 完結 |
おすすめ度 |
全巻の中古はこちらから
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