あらすじ
夫婦と息子1人、娘1人のありふれた幸せな時間を過ごしていた朝倉家が新居に引っ越したところから物語はスタートする。
朝倉達彦は、不動産開発会社に勤めるサラリーマンで妻の智子は専業主婦であった。
ある雨の日、車で達彦を駅まで送る途中に智子は女性を引いてしまう。
その女性、高村燿子は軽傷だったが、病院まで乗せてもらったその車内に同乗していた達彦を自分の父親と重ね合わせ次第に惹かれていく。
達彦も火遊びのつもりで体の関係を持ったが、燿子は本気で達彦を愛してしまっていた。
しかし、台湾出張で出会った白川の言葉をきっかけに達彦の中の何かが外れてしまった。
やがて、それは真面目に生きてきた達彦の生き方や考え方を変えてしまうほどの最初のきっかけとなってしまうのだった。
妻の智子は、高村燿子を車で引いたものの燿子を最初から好きになれなかった。
自分の夫とできているのではないか・・早い段階から疑いを持っていた。
夫を愛していたはずの智子の周りで、本人の意思とは関係なく不穏な動きが起こる。
専業主婦のため唯一外の世界とつながるガーデニング教室に通っていたが、この教室の講師に自宅で襲われてしまう。
そして、あろうことか罪を感じているこの講師に、智子は夫と燿子の関係を探らせるのであった。
そして、高校時代の同級生・柳との再会から智子の歯車も狂っていく。
長男の良介は、自分の両親は素敵な夫婦だと思っていた。
良介が惚れた奈津ちゃんは、良介の家を訪れた時に良介の父親である達彦を見て、外で別の女性(燿子)と密会していた人だと気が付く。
それを智子や長女の香織もいる良介の家族の前でばらしてしまったために、夫婦に亀裂が生じてしまう。
それ以降、表面的に見ていた夫婦の絆とは違うその裏側で両親に起こっていた不貞行為が何となく分かってきた良介は、家族への反発と自身の恋の影響で家を飛び出してしまう。
長女の香織は、唯一外から冷静に家庭内の状況を観察できる子だった。
ただ、達彦の友達で同じ会社の矢崎のおじさんと妻で病気の江里子さんと親しくしている内に、連日矢崎のおじさんの家と料理を作りに行くようになる。
香織にとって自宅は居心地のいい場所ではなくなっていた。
だんだんと矢崎が気になる存在となっていった香織は、江里子がもし亡くなったらどうするのか、と聞くのであった。
朝倉家の家族間は、簡単にひびが入り、あっという間に亀裂となって崩壊していった。
達彦は当初「自分が燿子との関係を断ち切ってなんとか家族をまとめなければ」と考えていたが、燿子にのめり込むうちに如何に家族の関係が事なきを得ないように今の関係を続けていけるかを模索するようになる。
智子との関係も修復できず、長男は家を出てしまい、長女も冷え切った家族には目も向けなくなる。
達彦の会社での評判は「おしどり夫婦」で仲人も頼まれたほどだったが、素敵な新居に越していくらも経たない朝倉家は、既に元には戻れないほど家族の関係は壊れ乱れていった。
やがて、達彦は会社の不正にも手を染め、不動産事業で特定の業者に発注をする代わりに見返りを手にするようになる。
手抜き工事を行う下請けの業者との癒着は続くが、その業者の社長が自殺した流れから自身への嫌疑もあり、会社からも追われてしまう。
実は、達彦が朝倉家の新居として購入した家も自分の勤める会社が手掛けた家だったのだが、家族関係と比例するかのように手抜き工事による崩壊が訪れようとしていた。
感想ネタバレ
とにかく新居での生活から間もなくタイトルの「幸せ」とは程遠くなっていく家族の物語であります(笑)
そして、常に家庭内に不倫と子育てと仕事のトラブルが起きつつも、夫婦と息子のいずれかのベッドシーンも毎巻出てきます。
当然、トラブルに幸せというものはないのですが、夫婦が他の誰かと体を重ねている時間も決して幸せな時間ではありません。
それでも序盤は、達彦と智子の夫婦生活も垣間見えたのですが、新居を構えてから暮らしていくにつれ思い出す体はお互いに別々だったりします。
「アットホーム」な空間は、1巻で朝倉家の車が燿子を引くまでですかね。
家庭を持ち、子供ができ、家を35年ローンで購入した先に幸せはあるのか・・・。
ほぼ最後まで朝倉家のぐだぐだな生活を見せられると「幸せな時間」を探す方が難しいかもしれません。
家庭の破滅に呼応するかのように途中で家を出ていった息子の良介の生活っぷりも甘いですよね。
初めての女性の元に転がり込み、一緒に生活していくために高校を退学したものの仕事は見つからず最終的にピンクチラシの張り紙で警察に捕まってしまう・・。
そして、お決まりの自分がうまくいかない理由は、「親や教師の言う通りに生きてきて平凡なただのいい子」だから。
そして、恋人の奈津ちゃんに「音楽という人生の目的があっていいよね。僕には何もない」と言う始末。
父親の女性関係と癒着による金の無心もどうかと思いますが、この息子、良介の軟弱さにも呆れかえるばかりです。
最後、警察に出頭する前、息子の良介に達彦は、自分の生き方の間違いが良介の人生を狂わせたと謝罪していましたが、大切なのは「家」と言う箱ではなく、そのの中にあるのでしょうね。
達彦が家の展示会で来客に言っていた「家はただの箱にすぎません。幸せな家族が幸せな暮らしをしてはじめて家は完成するのです。」という言葉とは真逆な人生をその「箱」を手にしてからの短い期間で朝倉家は味わってしまったわけです。
それにしても、実は一番正論で堂々と生きているのが良介の恋人であった奈津ちゃんであり、限度は越えても一途な思いで自分の役目を果たそうとするのは燿子だったりします。
一見幸せそうに見えないこの人たちが実は一番自分の求める者に向かって突き進んでいる「幸せな時間」を過ごしているような感じがしますね。
マイホームを持ち周りからも羨ましがられた幸せそうな朝倉家の家族4人は結局ばらばらになり、実際の家まで崩壊してしまいました。
すべてを失くしてから改めて子供たちの呼びかけで集まった夫婦の結婚記念日を「家族記念日」としてやり直そうと誓い合った時に、改めて家族一緒の幸せな時間を感じたという何とも切ない最後となってしまいましたね。
そして、達彦と不倫できている時間が一番幸せな時間だったかもしれない燿子の終盤、さらに達彦が最後に逃亡した先で出会った飲み屋の娘の悲しみは、朝倉家が幸せな時間をもう一度掴もうと努力するのとは反比例して不幸な時間の始まりとなってしまいました。
色々な人間の生きざまを見て「幸せ」とは何かを改めて考え直したくなる作品と言えるかもしれません。
そう言えば、こういう正式に出版された本やマンガには珍しく9巻に名前の漢字にミスがありますね。
「2006年1月21日第5刷書籍に準ずる電子書籍」以前ならあると思うので探してみてください。
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幸せの時間
連載 | 週刊漫画アクション |
作者 | 国友 やすゆき |
巻数 | 19巻 |
現況 | 完結 |
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