日本時間7月22日(火)、MLBのロサンゼルス・ドジャースの試合で先発した「クレイトン・カーショー」投手が、自分のピッチングの不甲斐なさか、味方守備の乱れからか、交代時にダッグアウト内で自分のグラブをベンチに叩きつけ、怒りの感情で絶叫していましたね。
これ、ドジャースファンや米国の野球ファンからすると、「そりゃぁ、あの守備の乱れではなぁ」と同情的な声も大きかったような気がするのです。
というのも、FAやDFA、ポストシーズンに向けた補強などで移籍が日常茶飯事のMLBにおいて、カーショーはドジャース一筋で今年が17年目のシーズンを送っているレジェンド選手であり、カーショーに対してはファンも寛容にプレーを見守っている感があるからです。
同じように日本人にもMLBファン、そしてドジャースファンが増えました。
毎日中継されるBS放送でのドジャースの試合を見ている多くの日本人も、このシーンを見たかたは多かったでしょう。
その結果「カーショーのこの振る舞いが、チームの士気に影響を及ぼすのでは・・」と多くの日本人の視聴者が心配したかもしれませんね。
文化の違いもあってか、現地の米国で暮らす人たちと日本で暮らす人たちの「カーショーの感情」に対する捉え方、心配の仕方が結構違ったのは面白かったところですね。
なぜ選手の感情に対して、これほど各国のファンの受け取り方が違うのか・・。
今回はそのあたりをちょっと探ってみたいと思います。
感情表現
欧米の文化では、個人の感情表現はより直接的になります。
例えば上のMLBのようなチームプレーのスポーツにおいても、味方のプレーに納得がいかなければそれに対する感情を爆発させる場面も良く見られますし、なんならベンチの中で味方同士による掴み合いの喧嘩もたまに見られます。
敵同士ならなおさら感情が爆発しますし、デッドボール一つでお互いの主張の言い合いから乱闘に発展する場面もよく見られますよね。
タイミングや場所などによっては配慮される場合があっても、基本的には相手のために取り繕ったり、その場のために気持ちを抑制したりという文化ではありません。
一方日本で言えば、感情表現は「場の雰囲気を配慮」します。
個人の「気分」や「機嫌」によって、場の雰囲気を悪くしたり他人の機嫌を損ねたりしないように、円滑な人間関係やその上にある「和」というものを非常に重要視します。
日本のプロ野球では、試合中にあからさまに取っ組み合いの喧嘩をするような感情的な場面はまず見られません。
個人個人で好き嫌いはあるでしょうけれども表立ってはそれを見せませんね
さて先ほど「気分」と「機嫌」を並列に書いてみました。
実は日本では「気分」と「機嫌」には明確に違いがあります。
気分と機嫌
「気分が良い/悪い」というのは、日本でも欧米でも「個人的な良い感情と悪い感情」で語られます。
個人的な感情なので、他人やグループにはまったく影響しない部分であり、その人の現在の感情を表すだけとなります。
「気分が良いから今日は朝から散歩に行く」のであれば、それはそう言っている本人の状態が良いので個人的な活動にいい影響を与えています。
「気分が悪いから今日は仕事を休む」のであれば、本人の状態が悪いので個人的な活動を控えています。
どちらも個人の感情によって、その後の行動結果が存在しているだけであって、周囲の人間には直接的に影響を及ぼしません。
一方「機嫌が良い/悪い」と言うと、その人の感情が対人における心の状態や他者に与える印象なども含まれて表現される場合が多いです。
上の文章を「機嫌が良いから今日は朝から散歩に行く」と書くとどう読み取れますか?
この発言が本人ではなく、他人がこの人の印象を見て発言しているように思いませんか?
「へぇ~、何かいいことでもあったのかね。」と他人に思わせ、朝から散歩に行ったのはこの人の機嫌が良いからだ、という印象を与えます。
「機嫌が悪いから今日は仕事を休む」となれば、対人から見ると「あれれ、私たち何か不機嫌にさせた?」と勘繰ってしまいそうですね。
「機嫌が悪い」と周囲の人たちに気を遣わせるような状態になっていて、「機嫌」というものが本人の感情だけの問題ではなくなっているのです。
日本人だと、本人だけの「気分」と言う感情と周囲にも影響を及ぼす「機嫌」と言う感情を無意識に使い分けています。
しかしこれはどちらも英語で「mood(ムード)」という単語で表されます。英語では自分の感情が周囲に与える影響と言うものを考慮されていないわけですね。
カーショーの場合は・・
つまりカーショーは「機嫌が悪かった」のではなく「気分が悪かった」のです。
自分のピッチング、味方の守備の乱れ、色々総括した結果「気分が悪くなって怒っていた」ので、周囲の人間も「あぁ、今カーショーは”気分”が悪くなっているね。しょうがないよね、あの守備じゃ」と現地ドジャースファンやMLBを取材するメディアは理解したのです。
一方で日本人のファンは、あのカーショーを見て「あぁ、カーショーの”機嫌”が悪いねぇ」とチーム内や周囲の他の選手への影響も含めて心配したわけです。
「機嫌が悪い」と認識したのはもしかすると日本人だけかもしれません。
「気分が悪そうだからそっとしておこう」ではなく「機嫌を”直してもらおう”」と考えて寄り添ってしまうのが日本人なわけで、それはどれだけのスター選手になろうと同じなんですね。
そしてそのスターの行動が注目された・・というよりは欧米人にはない「機嫌」という感情を察知した日本人に対して、どちらかと言うと「へぇ~」と言う物珍しさの方が先立ったために、「カーショーを励ますスター」と言う形でクローズアップされたのではないでしょうか。
(まとめ)
日本の社会では「気分が悪い」と言われれば、それは心配になりますし、「機嫌が悪い」と言われれば、それは近づかんでおこうとなります。
「気分」と「機嫌」という感情を表す似たような言葉であっても、使い方によっては本人も他人も色々な捉え方ができる言葉です。
カーショーの振る舞いに「チームリーダがそれではチームの輪を乱すだろう」と不快に思った日本人は、それが欧米での「気分の悪さ」だと考えたら・・。
それを日本語として受け止めると、ファンが離れるのではなく、やはり現地のファンのように「本人の問題だからそっとしておこう」という流れになるのかもしれませんね。

