ちょっと前に、MLBのニューヨーク・ヤンキースに所属する「ジャズ・チザムJr」内野手が「ルールが分からない」という発言をしてメディアを賑わせていましたね。
「ルール」というのはもちろん野球のルールなので、「お前が今さらそれを言うのか?」とファンも呆れていたという内容でした。
このお話からちょっと別の視点で「何か新しい分野に挑戦するとき」のお話に関連できそうなので、少し書いてみたいと思います。
まずはこの「ルールが分からない」という発言の背景を確認しておきましょう。
本当にチザム選手がルールを分かっていなかったのは定かではありません。
スポーツの世界では、プロであってもたまに見られる光景ではありますからね。
テニスでも随分前になりますけど「ノバク・ジョコビッチVSアンディ・マレー」の試合でありました。
確かマレーのリターンショットが高く浮き(野球のフライのようにボールが上がり)、ネットぎりぎりに落ちてくるところを、ジョコビッチがマレーサイドにラケットを少しはみ出してボレーショットをして得点した時があったのです。
マレーは「今のはオーバーネットではないか?」と主審に抗議しますが、そのままジョコビッチの得点になったと思います。
もしかしたら覆ったかもしれません。得点がどっちに転んだかは忘れました(笑)
もしかしたらマレーのリターンが、ジョコビッチサイドのコートまで届かない可能性もあったわけですから、ジョコビッチは落ちてくるボールを直接打つボレーではなく、一旦自分のコートにワンバウンドさせてからスマッシュショットを決めたが方が安全だったかもしれません。
思わず「チャンス」だと思ったのか、ジョコビッチはそのまま身を少し乗り出してボレーショットを打ったわけです。
この時も当時世界最強と言われたジョコビッチが、「オーバーネット」のルールを知らなかったのではないか、と少し海外では話題になっていましたね。
野球の細かいルールと比較すると、テニスの「オーバーネット」のお話は結構理解しやすいのではないでしょうか。
それ故に、ジョコビッチは観客やファンから「一流のプロなのにもしかしたら・・」と勘繰られた一件となってしまいました。
野球の話に戻します。
チザム選手が本当かどうかはさておき「分からない」と言った場面は、文章で説明しようと思うと結構難しいです。
場面は「レイズ対ヤンキース」の一戦で、延長10回裏、レイズの攻撃になります。
「4対4」でワンアウトランナー1塁・3塁です。
ヤンキースとしては1点も与えられない状況であり、切り抜ける主な方法は以下となります。
- 3累ランナーをそのままにし次打者・次次打者をアウトにする
- 1塁ランナーとバッターランナーをダブルプレーにする
- ただしダブルプレーもフォースアウトのダブルプレーでなければ限りなく3塁ランナーが生還する
フォースアウトのダブルプレーとは、簡単に言えば「1塁ランナー」をアウトにした後に「バッターランナー」をアウトにすると言う意味になります。
この場合、この一連の流れで2つアウトを取る前に3塁ランナーが先にホームを踏んでもホームインは認められません。
問題は先に「バッターランナー」をアウトにした(してしまった)場合です。
その際は1塁ランナーをアウトにするにはタッチプレーが必要となるので、1塁ランナーをアウトにする前(3つ目のアウトを取る前)に、3累ランナーがホームインするとレイズの得点が認められます。
つまりヤンキースのサヨナラ負けとなるのです。
この時チザム選手は何をやろうとしていたかと言うと、もちろん「フォースアウトのダブルプレー」を狙っていました(狙っていたと言っていました)。
2塁手である自分のところにボールが転がってきたので1塁ランナーにタッチし、その後でバッターランナーをアウトにしようとしていた、と。
ところが不運にもボールをファンブルし(取り損ね)、1累ランナーにタッチができなかったのです。
ボールを掴み直したチザム選手が3塁ランナーの得点を防ぐ、つまり負けないようにするためには、2塁ベースにカバーに入ったショートに投げて1アウトを取り、ショートが1塁ベースにいる1塁手に投げて、フォースアウトのダブルプレーを完成させるしかありません。
ダブルプレーが間に合いそうになければ、3塁ランナーをホームでアウトにできそうか?と考えるでしょう。
掴み直したボールをホームベースのキャッチャーに投げて、ホームに向かって走っている3塁ランナーをホームベース上でタッチアウトにしても、ヤンキースはサヨナラ負けを防げました。
ただしチザム選手がボールをファンブルした時点で、おそらくそれはもう間に合わなかったはずです。
つまりサヨナラ負けを防ぐためには、もうフォースアウトのダブルプレーしか方法がなかったのです。
しかしチザム選手は慌ててボールを拾った後、何をしたかと言うと・・・。
倒れこみながらバッターランナーをアウトにするために1塁へ送球したのです。
視聴者が「正解」を考えるなら、ボールをファンブルした時点でもうサヨナラ負けがほぼ確定しているだろう、というわけです。
それでもまず2塁ベースのカバーに入ったショートに投げて、1塁ランナーをアウトにしようとしたのであれば視聴者もまだ理解ができるのです。
その後にバッターランナーをアウトにできれば、フォースアウトのダブルプレー成立で得点が入りませんからね。
現場でプレーしている選手としては、本能的なプレーなのかもしれませんが、チザム選手が倒れこみながら投げた1塁への送球は、はっきり言ってしまえば「無駄なプレー」なわけです。
文章だけで申し訳ありません。野球を知らないかたにとっては、「なんのこっちゃ」と言う感じでしょうけれども、ここの話はもうちょっとで終わります。
もうちょっとだけお付き合いください。
これ、サヨナラ負けの場面ではなく、1回から8回までであれば良かったのです。
「1点の献上はしょうがない。1つでもアウトを取ろう」とバッターランナーだけをアウトにするために、頑張って1塁に送球したのであればまだ理解されたでしょう。
しかしサヨナラ負けが発生する9回以降で、今回のような場面では例え頑張ってバッターランナーを1塁でアウトにしたところで、その試合は負けとなるのです。
ではチザム選手は、サヨナラの場面でなぜあんなに体勢を崩しながら頑張って1塁に送球したのか・・?
それをメディアに聞かれたときに、「ちょっとルールが分かんないだけど・・」との前置きが始まったのです。
ヤンキースのブーン監督が試合後の会見で話をしていたように、確かにボールをファンブルしてパニックになった場面をメディアに聞かれたチザム選手が、「ルールを知らない」と言う話にすり替えただけなのかもしれません。
ただ野球をよく見ているかたや特にニューヨークのヤンキースファンにとっては、「何やってんだ?!」「野球のルールを分かってるのか??」と言いたくなる気持ちも分かるのです。
どんな組織にもルールというのはあります。
組織に加わると、そこにまつわるルールや法律を分かっていないと当然不利になる場面もありますし、「その業界にいるのにそんな簡単なルールも知らなかったの?」とバカにされる可能性もあるでしょう。
プロと言われる組織であれば、なおさらその組織のルールはすべて分かっている、と思われます。
しかし細かい部分まですべて理解しているか、と言われればそうではない場合もあるでしょう。
例えば今回の「野球」であれば、ルールの数が非常に多いスポーツとして有名です。
チザム選手が「分からない」と言ったルールは、野球においてはよくあるプレーで誰もが「まさか」と言えるくらいおなじみのプレーでもあります。
しかしドカベンの「ルールブックの盲点」のように、「あっ、そうなるのか」と野球をよく知っている人でも分かりづらいルールも確かに存在しているのです。
ではすべてのルールを頭に完全に叩き込まないと野球をやってはいけないのか・・。
それはないでしょう。
現役のプロ野球選手だからと言って、すべてのルールが完全に頭に入っているとは限らないのです。
同じように何かを始めようと言う時、こう言う人が絶対にいます。
「ちゃんと勉強してから」
「ちゃんと経験を積んでから」
「ちゃんとお金が貯まってから」
新しい世界にチャレンジしたくても、自分はすべてが揃っていないからチャレンジできない、と。
それが「言い訳」となっている、のがよく分かると思います。
ルールと言うのはやりながら覚えればいい話ですし、好きであったらまずやってみたらいいのです。
チザム選手のように、何年も高給取りのプロとしてやっているとメディアからもファンからもバカにされるケースだってあるかもしれませんけどね。
学校で教えられた「間違わないように100点を取りなさい」というのはいつも正しいわけではありません。
本当にルールが分からなかったのか、メディアを煙に巻いたのかはさておき、チザム選手のように「知らないんだよね。教えてほしいんだけど」と間違った時に素直に聞ける方が、大事なのかもしれませんね。
・プロになってからも学ぶべき点はいくらでもある
・プロだからと言って100%完璧ではない
・そしてプロでも間違う
今回のチザム選手の発言は、ニューヨーカーの人たちにとっては”悲鳴もの”かもしれませんが、これから新たな分野へ挑戦する人々にとっては色々な教訓を含むものになっていたのかもしれませんね。

