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フリートーク

乾くるみのセカンド・ラブは「???」から一転・・・

2024年7月8日

ネタバレに注意!

以前、筆者が別のサイトに掲載していた「セカンド・ラブ/乾くるみ」の感想を当サイトへ移行しました。

数ある「叙述トリック小説」の中でも、読後に思わず最初から読み返してしまったタイトルが2つあります。

それは、「乾くるみ」原作の「イニシエーション・ラブ」と「セカンド・ラブ」です。

漫画とは違い、小説をもう一度読み直す、しかも読み終わってすぐに最初のページを開くということがほとんどない筆者にとって、この2作品は正に希有な存在であり、ある意味「叙述トリック」の面白さを改めて思い知らされた作品でもありました。

「イニシエーション・ラブ」は、一時テレビなどのメディアでも話題となった作品なので記憶している方も多いでしょう。

確かに、最後から2行目に到達した時に、思わず「えぇっ!」と叫んでしまっていた自分がいましたね。

今では、本棚の隅で眠るその本の背表紙を見るたびに、焦って最初のページをめくった自分を思い出し苦笑しています。

「イニシエーション・ラブ」は、まさにそのラストが衝撃的でした。

「ラスト2行は絶対に見ないで」と言うあのキャッチコピーの指示通り、ラストに何らかの衝撃があることを知りつつずーっと読み進めてきて最後に自分の中で”ボン”と爆発した感じです。

B面に入ってからの違和感を感じてはいたのですが、最後のあのセリフ・・・。

同じように”完全にやられた”と言う人も多いでしょうね。

そういう意味では、「イニシエーション・ラブは分かりやすく騙された」と言う感じがしましたが、今回読んだ「セカンド・ラブ」に至っては、実は読み終えた後にすぐに理解ができませんでした。

いや、もちろん1回読んですぐにすべてを理解できた人もいるでしょうが、理解できてからすべてが繋がっていくあの感じは衝撃的でした。

以下は、「セカンド・ラブ」の本編に触れていくので内容を知りたくない人は、決して読まないでください。

・・・・・・

まず、序章を読むと「正明」と「春香」の結婚式のシーンから始まる・・と思っていたのですが、これがそもそも間違いだったわけです。

「正明」は第三者視線で、「新郎」と「春香」の結婚式を見ていたのが分からなかったのですよ。

ネタバレを公開している多くのサイトに書かれているような違和感をまったく感じなかった(泣)

最後まで読んだ後に、もう一度序章を読み返すと、「そうか~!」となるが、新郎の正明が単に憂(うれ)いているようにしか読み取れなかったのです。

第1章から第12章までは、序章の結婚式を挙げるまでの馴れ初めが描かれています。

主人公の「正明」が職場の先輩である「紀藤」からスキーに誘われ、そこで後に恋人となる「春香」、「紀藤」の恋人である「尚美」と男2人、女2人の計4人で苗場に向かうところから始まり、その後の「正明」と「春香」の付き合いから結婚に向かう恋の行方、そして「正明」と「美奈子」との出会い、そして「美奈子」の真実・・・と序章で描かれている結婚式までの1年間を追っていく。

そして、物語を読み進めていけばいくほど、序章で正明によって説明され非常に気になっていた「小さな嘘を積み上げて隠そうとしている新郎新婦の最大の嘘」についてはすっかり忘れていたのです。

では、この最初に正明によって語られていた「最大の嘘」とは何なのか・・・。

これは、作中にしっかりと答えが書かれているわけではないのですが、おそらく「内田春香は半井(なからい)美奈子である」という事なのだと思います。

「春香」と「美奈子」が同一人物なのではないか、というのは読んでいてすぐに分かりました。

しかし、あくまでも「春香」が1人2役を演じていると思って読んでいたのですが、もう一度読み返してみると、「美奈子」が自身と「春香」との2役を演じているのではないか、という気がしてきたのです。

春香-そう、君はそもそも、誰なんだい?本当に「内田春香」なのか?
美奈子-そう呼び掛けてみても君は反応しないだろう。

と、あるように正明は序章で「春香」が「美奈子」なのではないか、と疑っていますが、最初に序章を読んだだけではなかなか分かりにくいでしょうね。

まずは、「春香と両親」の話から見てみましょう。

「第6章はるかな初恋」の中で、「正明」が「春香」の実家を訪れるシーンがありますが、ここの春香親子と正明の対面は少し違和感を感じました。

というのも、両親と「春香」の間に親子らしい描写があまりないからです。

もちろん、この両親にとって「春香」は大事に育てられたものの半井家に生まれた双子の一人であり、血を分けた子供ではなく(春香はそれを知らないが)、その距離感を表しているだけなのかもしれません。

また、その事実を「正明」に知られないように余計な話をしない、という両親の決意の描写なのかもしれません。

「あ、そうか。あの人たち、正明くんに質問するばかりで、自分たちのことは何も言ってなかったよね。(中略)ウチの主な収入源になっているのかな。」
他人事のように言うが、父親が個人でビルをいくつも持っているというのは、正明にしてみれば相当なものである。

そうやって両親の話をする「春香」もどこかその言葉が他人行儀であり、正明も「他人事のように言う」と感じていました。

これは、あくまでも推測ですが、この両親も実は「春香」が「美奈子」になってしまったと気づいているのではないでしょうか。

父親の顔が「まるで病み上がりのようにも見える」という正明の感想だったり、父親が「正明の学歴や経歴」を確認したのも、「育ちのいい春香」ではなく「悪魔のような美奈子」と結婚するのであれば、その「経歴」に傷がつくのを心配したからではないのか、と勘繰ることもできます。

さらに、「美奈子」の死の真相に近づいた場面を見てみましょう。

「第12章貴方のために」で、「美奈子」の顔にあるホクロが付けボクロであり、ようやく「春香」と「美奈子」が同一人物かもしれない、と疑い始めた「正明」が秋田の「半井家」に向かい、そこで「美奈子」が既に「死んでいた」事実を知ります。

そして、死後1年経っている事実も・・・。

そうなると「美奈子」を演じていた人物は必然的に「春香」となりますが、問題は「美奈子」の死の原因ですね。

「美奈子の死は自殺だった」

秋田を訪問した「正明」は「美奈子」の両親からその事実を告げられたのでした。

しかし、推測通り「死んだ」のが「春香」であれば、どこで「美奈子」は「春香」と入れ替わったのか・・・?

「あのね、その西川って奴、とんでもなくサイテーな奴で、ウッチーに振られた後、腹いせに自殺しやがったの。校舎の八階から飛び降りて」
正明は思わず息を呑んだ。まさかそういう話になるとは思ってなかったのだ。
「―――当然ウッチーはショックを受けて、立ち直るのに相当時間がかかったんだけど、二人が付き合ってたってことは一部の人しか知らなかったから、それは不幸中の幸いだったと思う。ちょうど三年の夏休みの時期だったから、学校自体休みだったし」

「第11章うらはらな心」では、「紀藤」と別れた「尚美」が「正明」と偶然再会します。

その際、「尚美」から聞いた「春香」の唯一付き合った男の話を聞いた顛末がこれです。

「それからはお互いにこっそりと連絡を取り合って」

「終章北へと向かう翼」では、「春香」が「美奈子」の存在を知っていて、なおかつ連絡を取り合っていた事実が書かれています。

つまり、この2人は双子である強みを理由に、気分転換(?)などで入れ替わりを楽しんでいた可能性があるのです。

そこに、「春香」の恋人であった西川の死。

「終章北へと向かう翼」で、「春香」が「美奈子」の自殺の原因である交通事故について語っているシーンがあります。

「失恋して自暴自棄になって車を飛ばしてたら、対向車と正面衝突して、シートベルトをしてたから首から下はかすり傷で済んだんだけど、運悪く、対向車が積んでた荷物が正面から飛んできて顔面を直撃」

そして、「美奈子」は顔面に致命傷を負ったケガが原因で自殺したと言っていました。

さて、この一連の流れがもし、立場を替えて読んでみるとどうなるでしょうか。

つまり、恋人・西川を振ったのが「春香になり替わっていた美奈子」であり、西川の自殺を知った「美奈子になり替わっていた春香」が車を飛ばしていて、事故にあう。

美しくプライドの高かったと思われる「春香」にとって、「傷を負った醜い顔」という代えがたい屈辱を味わう結果になり、自殺をしてしまう。

そして、「美奈子」の姿のまま事故を起こし、顔に致命傷を負って自殺をしてしまった「春香」の代わりに、”しめしめ”とそのまま「春香」として生きる決意をした「美奈子」・・という筋書きだとしたら。

先にも書いた通り、「春香」の正体については、本文中には一切書かれていません。

しかし、「第3章一人にしない」で、「正明」が「シェリール」で初めて「美奈子」に会った際、あまりにも「春香」に似すぎている「美奈子」の存在を信用できないため、しびれを切らした「美奈子」が自分の免許証を見せるシーンがありましたね。

青く塗られた有効期限の欄は<<昭和六十年の誕生日まで有効>>となっている。本籍の欄には<<秋田県仙北郡田沢湖町->>とあり、住所欄にも同じ文字が書かれている。

青い免許は、「3年更新」であるから、前回の更新は「昭和57年」となります。

一方、「序章」では、現在が何年なのかを描写しています。

そんな奇蹟的な情景が観察されたのは、1983年12月30日の午後2時過ぎのこと。正明が内田春香と出会ったのは同年の1月1日の夜だった。出会いから今日の披露宴まで、ほぼ1年が過ぎている。
※原作の数字はすべて漢数字

1983年と言えば昭和58年です。

つまり、昭和58年の1月1日に「正明」と「春香」は出会い、4月末に「美奈子」が「シェリール」を辞めていたとママから聞いた「正明」は、秋田まで「美奈子」の実家を訪ね、「美奈子」が1周忌を迎えたと知るわけです。

昭和58年4月末の時点で、「美奈子」は死後1年が経っていた・・・。

また、顔に相当な傷を負ったために治療にも相当な時間が掛かっているはずです。

では、昭和57年3月に「半井美奈子」の免許証を更新したのは一体誰なのか???

そう、つまり免許証を更新したのは「美奈子自身」だとしたら・・・。

「シェリール」のホステスをしていた「ミナ」はまさしく「美奈子」であり、たまに「内田春香」を演じていたことになります。

まさに新郎新婦が抱える最大の嘘が「新婦の正体」なのではないでしょうか。

そうして、もう一度読むと「春香」と言う人間はこの世にはおらず、すべてが「美奈子」だと思って読むとしっくり来るのは気のせいではないかもしれないですね。

さて、「終章北へと向かう翼」で無事結婚式を終えた新郎新婦が、新婚旅行のためか移住のためか、成田空港で語り合うシーンで物語は幕を閉じることになりますが、その2人の正体が明かされています。

いや、正確には2人ではなく、「新郎」の正体ですね。

そう、「春香」の結婚相手は「紀藤」だったのです。

この物語は、4人でスキーに行ったメンバーのうち、「内田春香」と「紀藤」が結婚するまでのいきさつと実際の結婚式をスキーに同行した「正明」の視点から描かれているものだったのです。

???おや、でも「序章秘密をその胸に」には確か・・・

しかし会場にその小さな嘘を指摘できる来客はいなかった。新郎新婦の出会いの場に脇役として登場していた二人ですら―――一緒にスキーに行くほど新婦と仲の良かった女性も、新郎と仲の良かった男性も、披露宴には招かれていない―――招待状も出されていないのだ。

ということは、一緒にスキーに行った「正明」と「尚美」はこの結婚式には招待されていないはずなのですが。。。

明らかに、結婚式では「正明」はこの場にいるような雰囲気で語っています。

どういう意味なのでしょうか?

【序章秘密をその胸に】より
隣同士でひそひそ話をしている女性客がいて、その内容が正明には聞き取れた。
【序章秘密をその胸に】より
今は直接話し掛けることはできないので、正明はひたすら念を送る。テレパシーで会話ができたらいいのにと思う。
【終章北へと向かう翼】より
正明は窓ガラスの外から内に移動した。ガラスを通り抜けた瞬間、春香の表情が変わるのが見えた。

こういった「正明」の行動から彼は「幽霊」になってしまった、のだと分かります。

つまり、「春香」に振られた理由で自殺した、と読み取れるでしょう。

そして、これらを踏まえてようやく最後の2文の意味が分かったのです。

【終章北へと向かう翼】より
やっぱり「見えて」いるんだ。
ごめんね。ずっと嘘だと思ってた。

作中、「春香」が少し霊感が強い体質なのだと「正明」に語るシーンがありましたね。

「正明」はそれを信用していなかったわけですが、いざ自分が幽霊の立場で「春香」の前に現れてみせると、「春香」は顔色を変えたのです。

最後に、「正明」が「春香の霊感が本物だった」点については詫びて終わる、という何とも悲しい終わり方であったわけです。

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