昔、勤めていた会社の社長さんは、人材を募集する際の基準が少し変わっていました。
メンタルが弱そうな未経験者を積極的に採用し、経験値のある見た目元気な人はほとんど採用しなかったのです。
結局、新しく入っても早期で退職したり、休みがちで常に会社にいるわけではなかったりで、何か1つの案件を任せられる人はいるはずもなく、元から在職している人たちが楽になるかと思いきや全く状況が変わらない、という状態がたびたびありました。
それでは、この社長さんはなぜ新しい人材に、このようなメンタルが弱そうな人たちを迎え入れたのでしょうか。
それは、有能な人に来てもらっては困るからです。
普通は有能な人に来てもらうために新規募集をするのではないか、と考えると思いますが、この社長さんはとにかく基準が少しずれていました。
元からいるメンバーたちよりも力がありそうな即戦力を避けるのは、元々のメンバーがやりづらくならないように、未経験者を獲得するのは自分の会社で学んでもらうためという大義名分があるわけですが、これについては元々のメンバーで役職についていた筆者も苦言を呈したのは1度や2度ではありませんでした。
別に構わないから即戦力を入れてくれ、と。
この社長さんは、自分の会社内で常に優位な立場に居続けたかったのでしょう。
有能な人を雇ったらこれらの人が望むだけの高い給料を払わなければならないし、会社が軌道に乗らなくても勉強させてやるというスタンスを取ってみんな学んでいる最中だから会社が成長しなくてもしょうがない、という言い訳ができる。
人材募集の他にも色々な意味で会社そのものの成長には至らず、その後元からいたメンバーも多くの人間が退職をしていきました。
筆者がこの会社を辞めた時に、「10年持てばいい方かなぁ」と思ったのですが、12年経ってとうとう負債数十憶を抱えたまま、事実上の倒産となりました。
会社を経営していれば、自分の会社の色というのは自分で決めたいでしょうし、そのためにどうやって人材や業種を選定していくかを考えると思うのですが、この社長さんはあくまでも自分の包囲網にすべてを抱え込んで、悪く言えば「支配したい」ような感覚があったのだと思います。
会社が良くならないと経営者が悪いとされそうですが、そういった批判も「学んでいるみんなのレベルが低いから会社は中々上向かない」いう言い訳ができますしね。
自分の影響が及ぶ範囲で、みんなが暴走しないように自分の分かる範囲でみんなが活動する。
これでは、会社そのものが良くなるはずがありません。
「私は実業家ですよ。」などと常々言っていましたが、結果的に自信がなかったのでしょうね。
負債を返済できず、倒産寸前に追い込まれてもなお、その事態を「世の中のせい」や「人のせい」にしていたそうですから・・。
筆者がこの会社を退職して北海道に渡ったきっかけは、東日本大震災です。
それまで退職しようかどうしようか悩んでいた時に、震災によって「一度きりの人生」と背中を押してもらった形になりました(もちろん震災を肯定するつもりは毛頭ありませんが、結果としてそうなりました)。
もし、震災が起きていなければ・・、あのまま退職せずにこの倒産に立ち会っていたのかもしれない、50を前にまだまだ雇用されるために再就職口を探していたのかもしれないと思うと、やはり人生はどう転がっていくか分からないものだと、つくづく思いますよねぇ。