前回、京王電鉄が住信SBIネット銀行との提携で「京王NEOBANK」というフルバンキングサービスを提供している話を書きました。
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鉄道会社がSBI銀行と融合した金融サービスは順調か
「京王電鉄」は、都内で生活・仕事をしている人であれば良く乗る電車ではないでしょうか。 小田急線と並んで新宿から西の方に走る私鉄沿線のイメージがありますが、都会から段々と住宅の多い地域が広がっていく風景 ...
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この金融サービスへの参入は若手社員からの提案だったようで、京王電鉄の社内にそのような若手社員でも意見を言える風土があったからでしょう。
このように若い人や新人でもどんどん意見を言える環境というのは、日本の企業で構築するのは中々難しいかもしれません。
企業風土としては、年功序列や先輩・後輩などの関係性が強く残っているためですが、それでも企業によっては前回の「鉄道と金融の融合」のように、若い世代からの意見を取り入れてこれまでにない新たなサービスを提供しようという考えも出てきています。
京王電鉄のような大企業などは社内改革などのニュースが様々なメディアにも登場するでしょうから、大企業が率先してこのような企業風土を行っていると披露するのは非常に良い傾向になりますね。
ちょっと海外に目を向けてみましょうか。
イノベーション社会が当たり前で、起業家が続々と誕生するアメリカでも、実は何でもないところから凄いサービスが誕生したのをご存じですか。
その新しいサービスを生み出した企業は「グーグル」で、サービス名と言えば今では誰もが使っているWebメールの「Gmail」です。
それまでのメールというのは、パソコンのローカルディスク上にインストールしたメールソフトウェアで受信サーバーと送信サーバーをセットしてメールのやり取りを行っていました。
送受信したメールデータはパソコン内に保存されるので、もちろんパソコンから離れてしまうと送受信したメールの一覧は確認ができなくなりました。
ではいつでも自分が送受信したメールを確認できるようにするにはどうしたらよいか・・という悩みを解決してくれたのが「Webメール」でした。
その走りが「Hotmail社」の「Hotmail」で、その後1997年末にマイクロソフトに買収されたという経緯があります。
この頃から既にIT大手企業の買収が盛んでした(笑)
Hotmailを最初に使った時は、本当に感動したのを憶えています。
メールが主流の時代に、会社のパソコンでやり取りしたメールが自宅のパソコンでも見られたわけですから。
今にして思えばクラウドの先駆けですね。
それに比べると「Gmail」は、Webメールとしては後発になります。
そんなGmailは「たった1人のエンジニアが業務の隙間時間に構想から開発までを担当し、その隙間時間はグーグルによって正式に与えられていた時間だった」という環境から誕生しました。
少しこのGmailの歴史を振り返ってみましょう。
グーグル社でエンジニアとして働いていた「ポール・ブクハイト」氏は、1996年頃の時点でWebメールの可能性に着目していました。
当時は既存のメールサービスの容量が少なく、検索機能も貧弱だったため、ブクハイトはグーグルの検索技術を応用した「大容量で検索可能なWebメールサービス」を構想したのです。
これが後に「Gmail」となるわけですが・・。
実はGmailはグーグル社内で綿密に打ち合わせされた結果に誕生したWebメールサービス・・・・ではなくポール氏が単独で開発したメールサービスだったのです。
一社員がなぜ好き勝手にグーグルのコアである検索機能を有したWebメールを開発できたのかと言うと、それが「20%ルール」によるものでした。
「20%ルール」とは、従業員は誰でも業務時間の20%を自由なプロジェクトに使えるという制度でした。
ポール氏はこの制度を活用してGmailの開発に取り組みましたが、いざ始めてみると社内からはメールサービスは「グーグルのコアビジネスではない」と言う反対意見も出始めました。
出る杭は打たれる的なものがあったのでしょうかね・・
しかしそこはやはりグーグルであり、20%ルールから生まれたサービスだったので、開発は継続していきました。
そして、2024年4月1日にGmailのベータ版が発表されました。
この当時Webメールの先駆けだったマイクロソフトのHotmailは、無料版の容量が2MBで有料版の容量が2GBと言う時代でしたが、Gmailは無料で使えるメールサービスとしては画期的な1GBを提供すると発表しました。
日付も日付なだけにエイプリルフールのネタだと思った人も多かったそうですが、本当に1GBで提供したために、この2カ月後Hotmailは慌てて無料版の容量を250MBにアップデートしたほどです。
現在、GmailはGoogleドライブやGoogleフォトなど他のクラウドサービスとも合わせて全体で15GBもの容量が無料で利用できる「クラウドサービス」へと進化しました。
後発だったGmailも今ではWebメールサービスとして真っ先に名前が挙げられるほどの成長を見せたわけですが、そのきっかけは各個人に与えられた自由な発想からだった、というわけです。
業務として社内でしっかり体制を整えて、開発していくプロセスももちろん大切でしょう。
一方で個人の情熱・熱意のようなものを自由に解放させて、新しいサービスを生み出す例としてグーグルの「20%ルール」はあまりにも有名になりました。
このような誰の意見でも取り入れられるような社風というのは、思いもかけないイノベーションを起こすものなのです。
Web検索の会社がメールサービスを開発したり、鉄道サービスが金融サービスも展開したり、と。
新年度を迎えるにあたって、事業が伸び悩んでいる会社の上層部のかたは、自社の社風がどうなっているのか振り返ってみるといいかもしれません。
風通しが悪くなっていると思えば、そこに風を通すのは案外簡単な方法でできるものなのです。