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【マンガ】ニュクスの角灯

2021年2月22日

「ニュクスの角灯」の概要

時は、明治初期の1878年、長崎。

先の西南戦争で父親を亡くした美世は、一緒に暮らしているおばさんと共に売り子を募集していた「とある骨董屋」を訪れる。

そこで出会った店主のモモ(小浦百年)に、美世の能力である神通力を見込まれ、給仕として雇われる運びとなった。

自他ともに認める”何も取り柄がない”美世は、モモやまかないの岩爺と共に、骨董屋「蛮」を切り盛りしていく。

モモは、商売人としてはもちろん、外国にも精通していて、ミシンやマジックランタンなどの舶来発明品を使って、日本で売れそうなもの・人気の出そうなものを日本のお客さんにたくさん紹介できる人物だった。

そして、美世はそんな外国の世界、モモという商売人に次第に惹かれていく。

ある時、モモは、長崎一の女傑、大浦慶にビジネスの話を持ち掛ける。

パリの万博で日本製品の人気の高さを目の当たりにし、日本政府をも半官半民の会社を立ち上げるほど盛り上がるを見せる欧州に日本製品を輸出するために、商品の選定と店の舵取りをお願いしたのだ。

そして、モモはパリに「蛮」の支店を出すために自ら現地に赴いて営業販売をすると言う。

モモとしばらく離れ離れになるかもしれないと感じた美世は、失意のさなか、モモが懐中時計に西洋の女性の写真を持ち歩いていると気づいた。

パリへと旅立ったモモと懐中時計に隠された西洋美女との運命とは・・。

そして、「蛮」の店主となった大浦慶と岩爺、そして美世に思いを寄せる民平と共にモモのいなくなった店を切り盛りする毎日に戻った・・・のだが。

ある日、一人の男性が大浦慶の元を訪れる。

その男性とは、「蛮」と同じく日本の美術品や工芸品を海外に輸出する会社である半官半民の「起立工商会社」の社長、松尾であった。

語学や会計を普段熱心に勉強していた美世を紹介された松尾は、自社のニューヨーク支店で美世を働かせてみてはどうか、と慶に持ち掛けた。

ニューヨークで勤務するまで最初の2ヶ月はパリに滞在し、言葉や接客、会計を学ぶと言う。

長崎の仲間、そして育ての家族と別れ、パリへと旅立つ決意をする美世。

大好きなモモがいる、そしてモモが愛しているであろう西洋の女性、日本で美世を待つ決意をする民平。

様々な想いが交錯するパリでの美世の新しい生活が始まろうとしていた。

・・・・・

熊本で暮らしていた年老いた美世は、そんな昔話を聞かせて自分の孫を落ち着かせようとしたが、長崎は運命の日を迎えようとしていた・・・。

マンガ評(少しネタバレ)

明治の時代を正に「ロマン(浪漫)」と書くにふさわしい、美しい物語が描かれています。

タイトルは、「ニュクスの角灯(ランタン)」。ランタンが読めなかった.....。

冒頭は、熊本で暮らす年老いた美世が空襲の最中、孫に思い出話を聞かせるように、自身が辿ってきた明治時代の長崎、パリでの暮らしを話し始めます。

それが、物語として全般につづられ、エピローグではまた現在に戻り衝撃のラストで幕を閉じます。

美世の昔話があまりにも美しく語られ、明治時代の思い出話に浸ってしまうと、物語としての現在の時間は1945年の空襲の最中であるのを忘れてしまいますね。

西南戦争で父親を亡くし天涯孤独となった美世は、父方の叔母の家へと預けられるのですが、何もいいところがなく自分に自信が持てなかったのです。

「蛮」にも叔母さんと一緒に面接にきたぐらいですから、”ダメでもしょうがない”という気持ちだったのでしょう。

しかし、暗い部分に光を当ててくれるのが夜の女神「ニュクス」である、とモモの回想シーンでジュディットがモモに説明していました。

自分に暗い部分があると分かっていた美世は、ニュクスがモモであってほしかったのでしょうけれども、実際は違う方でしたね。

美世に光を与えてくれたのは、ある意味「起立工商会社」の松尾社長だったのかもしれません。

外国に行ってみたらどうか、という松尾社長の勧めもお慶さんは最初、娘のように思う美世を心配して反対していました。

しかし、自分の希望を押し付けているだけだとお慶さんは最終的には美世をパリへと送り出します。

無口で見た目が怖い美世のおじさんも

”ふつつかな娘ですが”と言って送り出してくれましたね。

そして、出航です。

パリで、モモが想うジュディットと対面した美世は、これまでの自分をジュディットにさらけ出し、酒浸りになった亡き父の弱さと似た部分を酒と病に倒れたジュディットに見出しました。

ジュディットもまた、そんな美世の姿を見て自分の弱さを認識したのです。

お互いがお互いの光となって先行く道を照らしてくれる出会いとなったのかもしれません。

自信を失っているジュディットにも、そして自分の成長のためにもニュクスが照らす光へと・・

読者の間には最後が駆け足過ぎる・・

という声もあったようですが、長崎でのモモとの出会い、そしてパリでの2ヶ月が物語とした色濃く語られるのが一番しっくりくると思います。

長崎とパリでの思い出が、美世のすべてであったのでしょうから。

その後のニューヨークでの暮らしや、その後日本に戻ってきた話は、ぼやかされています。

すべての思い出を物語にするのではなく、ぼやかした後に一気にお話が現在の時間に戻ってきます。

これってものすごく切なくなる、というか感動が増えますよね。

美世のアメリカでの生活や日本に戻ってきてからの生活が、少しだけ美世の口から説明されていますが、ここはもう美世にとっては重要ではないのですね。

長崎でモモや仲間との出会い、そしてパリでの生活を一緒に見てきた読者が、美世がその後をどう生き抜いてきたかを想像すればいいのです。

最後に孫の幸世(さちよ)が、おじいちゃんのお墓に手を合わせていますが、「浜家」となっています。

はっきりとは描かれていませんが、美世が結婚した相手は民平なのでしょうね。

パリにいる美世に届いた民平の手紙には、「HAMA」と書いてありましたし。。。

作者の方が熊本地震に瀕しながらも、第24回手塚治虫文化賞を受賞された「ニュクスの角灯」。

明治の世を生きた一人の女性の成長物語と晩年の戦争の悲しみが交差する何とも言えない深い味わいのあるお話です。

是非手に取って熟読していただきたいマンガと言えますね。

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ニュクスの角灯の情報

連載コミック乱
作者高浜 寛
巻数6巻
現況完結
おすすめ度

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